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発作性心房細動の発症を機に心臓弁膜症(僧帽弁閉鎖不全症)が見つかり,弁形成手術と心房細動に対するメイズ手術(ラディアル手術)を受け,さらに術後に発症した感染性心内膜炎の治療を受けた記録です。

手術前日

7月12日(日)

 日曜日なので,病院は基本的には休みで,普段よりも静かな感じ。

 朝食に出た冷たい牛乳を一気飲みしたら下痢をしてしまった。今晩下剤を飲む予定なのに,一足先に腹の中はスッカラカンである。

 ICU(集中治療室)の見学を希望すれば出来るというので,折角だから見学させてもらう。ICUと言えば,厳重な管理の下でなかなか入室が許されないものと思っていたが,ここ日本海大学病院はそこらへん万事おおらかで,手を消毒し,マスクをつけただけで,普通に入っていける。見舞の時間や人数制限も,本当はあるみたいだけど,厳格には守られてはいない。
 ICU管理については日本が神経質すぎるというような話を聞いたこともあり,ここのやり方は欧米流なのかもしれないが,折も折,新型インフルエンザが夏だというのに最悪のタイミングで流行を始めたことを考えると,ちょっと不安になる。見舞客の中に新型インフルエンザが潜伏している人が紛れていて,ICUの抵抗力のない患者にうつってしまったら,と考えるとちょっと怖い。
 今にも生まれそうなお腹の看護師さんに中を案内してもらった。もうすぐ産休に入ると言っていたが,ここでなら仕事中に急に産気づいたとしても安心だろう。
 個室と大部屋に分かれており,症状の軽い患者は大部屋にいる。大部屋といっても,一般病棟のように極狭ではなく,隣の患者との間には十分なスペースがある。大部屋の方には各ベッドの床頭台にテレビが置かれていたが,見ている人はいなかった。ICUは夜でも真っ暗にはならないので,眠れない人も多いそうだ。しかし,私は眠るのだけは得意なので,大丈夫だろうと思っていた。

 ICUに持ち込む荷物には,全て油性ペンで名前を書き込まなければならない。直接書き込めないものはビニルテープを貼って書き込む。貴重品の持ち込みは禁じられ,腕時計も持ち込めない。私の腕時計は2,3千円の安物だと言っても認められない。しかしiPodは,こちらの方が高いのだが,認められた。順調ならば,2泊3日で一般病棟に帰るので,見ないだろうとは思ったが,一応,テレビカードと文庫本も持ち込むことにする。その他は,湯飲み,歯ブラシ,箸,スプーン,電気髭剃り器,ティッシュペーパー,ウェットティッシュくらいだったろうか。T字帯と浴衣とバスタオルは看護師さんにあらかじめ預けておく。バスタオルは,手術台の下に敷いておき,手術台からストレッチャー,ベッドへと患者を移すときに,バスタオルを担架のように持って移すらしい。なので大きめのが必要。

 トライボールという肺機能練習器(→http://www.592834.com/kunren_02.htm)を手術前にやらされたという体験記も多かったように思うが,ここ日本海大学病院では,肺手術を予定されている方はやっていたが,心臓手術ではやっていなかった。その他これまで,手術前だからといって特別にすることは,食事が減塩食(6g/日)であるということ以外は何もない。

 食事も夕食まで普通で,夜9時以降は絶飲食となる。

 手術前日と言うことでシャワーを浴びる。

 手術不可避と分かった頃には,手術前日の心境とはどういうものかと思っていたが,実際に体験してみると,いたって普通である。心配といえば,人工心肺で命をつないでいるときに,万一停電になっても大丈夫か(いつも聞こうと思っては最後まで聞き忘れた)とか,先週は不整脈学会に出席していたため,仁田先生は一度も手術をしていないはずである。久々の手術で手元か狂わないだろうか?週の初っぱなの月曜日でなくて火曜日の手術にしておけば良かったんではないか,とか,あまり切実でないものが思い浮かぶ程度である。
 2月25日の日記に書いたように,百分の一に薄められた死の恐怖を積極的に味わいたいと思い出してから,ポンプヘッドの心配を別にすれば,死への恐怖は逆に遠のいてしまい,この手術を,大袈裟に言えば自分の世界観に影響を与えるようなビッグイベントにしたいという思惑は外れつつあった。むしろ,手術前日になっても心境に何の変化も起こらないことに,せっかくのチャンスをみすみす逃しているような焦りに似た思いを抱いていた。
 ただし,自分で見える範囲の心はこのように平静だったが,潜在意識の領域ではどうだったか分からない。今日,下痢をしたことだって,もしかしたら冷たい牛乳を一気飲みしたことが主因ではなく,潜在意識が恐怖に怯えているための神経性のものだったのかもしれない。

 夜9時に絶飲食となる前に,下剤が与えられる。普段から下痢症の私は,下剤を飲むのも初めてだ。飲んだ直後に腹が痛くなるのかと思ったが,そんなことはなく,明日の朝にちょうど出るような感じで効くという。
 下剤で出れば,浣腸は免除の病院も多いようだが,ここでは下剤の効果によらず浣腸は必須。当然,浣腸も生まれて初めてだが,今晩の当直の看護師さんは生憎男性であるので,我が浣腸童貞はこの男の看護師さんに奪われることになりそうだ。(´・ω・`)

 ネット上の色々な体験記により,手術のイメージは大体つかめていたが,ただ一つわからなかったのは,手術直後の大便についてである。下剤や浣腸で出し切っているので,出ないのかもしれないが,出たくなったらどうするのだろう?
 この点を看護師さんに質問してみると,尻の下に平たい便器を差し入れて,寝たままするのだという。
ヾ(≧∇≦)〃ヤダヤダ
 そんなことできるだろうか?

 静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)予防のため,ふくらはぎをきつめに締める弾性ストッキングが用意され,これを履いて寝る。

 手術前夜は眠れなくなる人が多いため,睡眠薬を飲むか看護師さんに聞かれる。眠れないと何か困ることがあるのかと尋ねると,特にないというので,断る。この世で最後になるかもしれない夜を,眠れずに過ごすのも悪くないと思ったのだが,すぐに寝てしまった。

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壊れた心臓の修理の歌

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執刀医による手術前の説明

7月11日(土)

 朝は,万一の場合の輸血に備え,血液の適合性(抗体反応)を調べる「交差適合試験」用の血を採る。

 今日の予定は,家族らを交えての,執刀医の仁田先生からの手術の説明,いわゆるムンテラ(Mund Therapie=「口療法」を意味する和製独語が語源らしい)と,泌尿器科でエコー検査。泌尿器科のエコー検査は,血尿のため。説明不足だったかもしれないが,血尿といっても,パンツに血が一滴付いていたという程度。ただ,カップに受けた尿の色は相変わらず,濃いほうじ茶のような色をしている。

 内科の有野先生が,わざわざ病室まで来てくれて,冠動脈CTの結果,冠動脈はキレイで全く問題なかったと教えてくれる。(有野先生が来てくれたのは,昨日の金曜だったかもしれない。)

 般若心経まで暗記して,不足の事態への対応を準備してきた剃毛は,やらないそうだ。\(^_^)/ 頭の手術でも頭髪を残したまま手術する例も出てきているらしいので,この習慣は,本当に必要な場合を除いて徐々になくなっていくのだろう。ただ私は,夏にしばらく風呂に入れないのも気持ち悪いし,下の毛も剃るのだからついでにと,頭を丸坊主にしてしまったのだが。

 泌尿器科のエコーを除けば,心臓関連の検査は昨日で全て終わったことになるので,これまでの検査をまとめてみると,レントゲン,心電図,血液検査のような日常的な軽い検査を除けば,
  (1) 経胸壁心エコー検査 (2/12, 5/14)
  (2) 経食道心エコー検査 (2/23)
  (3) 肺機能検査 (6/25)
  (4) 頭部と胸部のCT検査 (6/25)
  (5) 頸動脈エコー検査 (7/3)
  (6) 冠動脈造影CT検査 (7/8)
  (7) ABI検査(足関節上腕血圧比) (7/10)
となる。

 家族らがそろい,仁田先生の説明の約束の時間になると,看護師さんが呼びに来てくれる。そのまま家族共々ぞろぞろと看護師さんの後についていくと,泌尿器科の外来に連れて行かれる。あれ? てっきり,仁田先生の所に行くのかと思っていたが,泌尿器科のエコー検査に呼ばれたようだ。
「この時間は,仁田先生から手術前の説明を受ける事になっていたんですが」
と看護師さんに言うと,
「仁田先生の所には,これから私が行って伝えておきますので,こちらを先に済ませて下さい」
とのことで,先に泌尿器科のエコー検査を受けることになる。
 土曜の午後ということで外来患者はいなかったので,すぐに呼ばれる。ベッドに仰向けになり,パンツをちょっとずりおろし,心エコーと同じような感じで膀胱の辺りをグリグリと調べ,すぐに検査終了。エコーでは特に問題は見つからなかったようで,もし何か問題があっても手術後に治療すればよいとのこと。特に心配はしていなかったが,そう言ってもらえると一層安心だ。

 次に,いつもは混んでいるが,こちらも土曜の午後なのでガランとしている第二外科の外来診察室に向かい,仁田先生の説明を受ける。本来の目的であった,僧帽弁閉鎖不全症(severe)に対する僧帽弁形成術の事よりも,今はむしろ,大動脈弁閉鎖不全症(moderate)をどうするかの方に関心がある。仁田先生もまず,この大動脈閉鎖不全症に関する話から始めた。

 結論から言うと,今回は,大動脈弁閉鎖不全症に対する治療は何もしない。理由は次のようである。まず,私の大動脈閉鎖不全症に対する見立ては,治療せずに放置した場合,将来,手術が必要になる可能性も高いが,死ぬまでこのまま悪化せずにもつ可能性もあるといった感じだそうだ。治療を行うためには,治療を行った方が利益が大きくなる見込みがなければならない。

 まず前に話があった,大動脈弁形成術は,いまだ術後遠隔期の成績が不明で,将来,再手術になる見込みが大きい。放置すればもしかすれば一生もつかもしれないのに,大動脈弁形成術を施した結果,再手術の確率が高くなるというのでは,手術をする意味がない。
 私は,弁輪縫縮くらいなら耐久性の問題はないかと期待していたが,そうでもないようだ。

 また,生体弁への置換という選択は,これまた,確実に再手術が必要になるので,論外。

 機械弁への置換という選択は,この先一生,定期的な病院通いとワーファリンの服用が必要となることによる生活の質(QOL)の低下を考えると,現状では得策ではない。

 ということで,大動脈弁閉鎖不全症に関しては,今はこのまま放置するのがよいだろうという結論だ。この説明には納得できた。しかし,もともと顔つきがボーッとしていることもあり,無表情だったのだろうか,仁田先生には
「何か不満? もっとすごいことをやると思った?(^_^)」
と言われてしまったが,そんなことはない。むしろ「外科医は何でも切りたがる」という先入観あるので,こういう放置という選択には感謝しているし,自分の業績やスキルアップよりも患者の利益を優先してくれているようで信頼感が増した。
「外科医としては,大動脈弁形成術にチャレンジしたい気持ちはあるんですが」
と言っていたが,それはそうだろう。また,仁田先生が何気なく口にした
「昔は,冒険的な手術をどんどんやるような風潮もあったんですけどね,今はそういう時代じゃないから」
という一言は,私には,7月4日に書いた榊原仟のエピソードを思い起こさせるものがあった。

 また仁田先生の話では,機械弁はある程度完成の域に達していて,この先,劇的に性能を上げていくと言うことは期待しにくいが,生体弁の方は,現在も研究が進行中で,まだまだ性能が上がっていくことが期待できるそうだ。あと10年もすれば,大動脈弁形成術の耐久性も段々明らかになってくるだろうし,手術手技も改良されているだろう。こういう事を考えても,今すぐ大動脈弁に手を加えないという選択は良さそうだ。

 ただ,万一僧帽弁形成術がうまくいかずに,人工弁に置換せざるを得ない場合には,私の希望は機械弁で,どうせワーファリンが必要になるため,そのときは大動脈弁も機械弁に置換してしまおうという話になった。その場合は,以前に決めた通り,ON-X弁でお願いすることを確認する。

 このような選択に私自身十分納得し,満足しているのだが,ただ一つの不満は,説明の手続きについてである。私は,治療と放置で迷うような場面では放置を選ぶ方が好きなので,今回の結論に満足しているが,仮に仁田先生が大動脈弁形成術に積極的な考えをもっていて,バリバリに形成するという選択を示したとしても,手術2日前では拒否する事は難しいだろう。患者が治療法を選択できるためには,やはりもう少し早く執刀医から説明を受けられる体制になっていた方がうれしいと思う。例えば,大動脈弁閉鎖不全症が分かった5月時点で,今回のような説明を受けていたとしたら,その結論を受け入れる前提で,念のために大動脈弁形成術に積極的な医師のセカンドオピニオンを受けてみるということも(実際の私のスケジュール的には無理だったと思うが,仮に私が年金生活をしていて,時間がたっぷりあったとしたら)できたと思う。その意味で3月9日に書いたような不満は,私のわがままではないと思っている。
 だったら直接,仁田先生にそう言えばいいと思うかもしれないが,手術直前に執刀医の機嫌を損ねかねないようなことを言う勇気はありませんでした。orz

 希望的観測として,わずか3ヶ月の間に,大動脈弁閉鎖不全症がtrivialな逆流があるかないか(±)という程度から,mildを飛び越えて,一気にmoderateに二階級特進しているので,簡単に悪化したものは簡単に治るのではないかと思い,
 「僧帽弁閉鎖不全症を治す」
→「心臓が小さくなる」
→「大動脈弁輪が小さくなって大動脈弁がキチッと合わさるようになり,大動脈弁閉鎖不全症が治る」
ということにならないか聞いてみるが,残念ながらそういうことは期待できないそうだ。この逆過程:
 「大動脈弁閉鎖不全症になる」
→「心臓が肥大化」
→「僧帽弁閉鎖不全症になる」
はよく起こるそうだが,残念ながらこの過程は不可逆過程のようだ。

 当日は,7時半~8時ごろ手術室に向かい,午前9時~9時半に手術を開始し,予定手術時間は4~5時間という。

 また,心房細動に対するラディアル手術は,慢性心房細動を含めて成功率9割弱だが,術後,”一時的”に心房細動が現れる確率は,日本海大学病院の場合には,4割程度という。意外に高率に思えるが,切られたり焼かれたり凍結されたりすれば,心臓も落ち着きを取り戻すのに時間がかかるのだろう。その場合には,アミオダロン(商品名アンカロン)で押さえるという。

 手術後,ICUで目覚めたときには,たくさんの管が体についたスパゲッティー状態になっているが,その管の種類,数として,カムバックハートさんのブログからプリントアウトしたものをあらかじめ用意しておき(http://comebackheart.blog14.fc2.com/blog-entry-14.html)
「これ↓↓↓と同じですか」

1. 胃の管(胃の中のものを出し、吐き気を防ぐ、鼻から食道経由で胃へ)
2. 人工呼吸器の管(口から気管内へ)
3. スワンガンツカテーテル(心臓の機能を見る管、首から心臓へ)
4. 中心静脈ライン(心臓に薬や栄養を点滴する管、首から心臓へ)
5. 動脈ライン(血圧測定、採血用、左手首)
6. ドレーン2本 (術部からの出血を外に出す管、腹部)
7. 尿道留置カテーテル(おしっこの管)
8. 点滴(抗生剤や水分補給、左手首)
9. 体外式ペースメーカー用のリード線(不整脈や脈が遅い時に使う、腹部)

と聞くと,3番のスワンガンツカテーテルは,この病院では最近はやらなくなったとのこと。スワンガンツカテーテル(肺動脈カテーテル←Wiki)とは,カムバックハートさんも書いているように,首の静脈から心臓に測定器をつっこむという一番恐ろしげな管なので,これがないというのはちょっとうれしい。さらには,1番の胃の管も多分やらないだろうとのこと。あとは同じだそうだ。目覚めたときの管についてあらかじめ知っておけるというのもありがたいことだ。細かく書いておいてくれたカムバックハートさんにはあらためて感謝だ。

 私が聞きたかったことはこのくらいで,あとは,家族らもいるので,お決まりの,僧帽弁閉鎖不全症僧帽弁形成術,置換術,ラディアル手術や,そのリスクについての説明を受ける。リスクについての説明が続き,私は平気なのだが,母が不安になるのではないかなと,そっちの方がちょっと気がかりだったが,一通りのリスクを説明し終えると,仁田先生は
「まあ,でも,私はこういう手術はたくさんやっていますから,大丈夫ですよ」
と言ってくれる。最近は医療訴訟に備え,医師が患者に対して「大丈夫」と言うことは禁句になっているということも聞くが,仁田先生は結構大胆に色々な場面で「大丈夫」という言葉を使う。
 ただ,後で母に聞くと,耳が遠いので仁田先生が何を言っているかよく分からなかったとのこと。そもそもそれ以前に,どうせ聞いても分からないと,はなから諦めて,なんとなく頷いていただけのようだ。医師からすれば困った家族だ。

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入院2日目:麻酔科

7月10日(金)
入院2日目:麻酔科

7月10日(金)

 5:30頃になると,お年寄りはもうボチボチ起き始め,特に女性はおしゃべりを始めるので,私自身も目が覚める。しかし,まだ眠いのでうつらうつらしているが,6:00きっちりに部屋の電気がつけられるので,起きる。10:00に寝て6:00起床とは,何て健康的なんだろう。

 早々に看護師さんが回ってきて,採血。採血は以後も頻繁にされる。

 麻酔科の外来で,麻酔についての説明を受ける。この説明は,普通は手術の前日に行われることが多いようだが,私の場合は手術前日が日曜で休みなので,今日になったようだ。
 全身麻酔というのは,ガスマスクのようなもので麻酔のガスを嗅がされ,一瞬で気を失うものと思っていたのだが,静脈から麻酔薬を注入するそうで,これが結構痛いと聞かされる。痛いのは嫌だぁ。
 後は,お決まりの,全身麻酔に関するリスクの説明。ありとあらゆるリスクがあるが,「禿頭」なんていうのもある。びっくりしたのは,「術中覚醒」。心臓を止めている最中に目が覚めたら,ショックのあまり,心臓麻痺を起こしてしまうのでは??
 「何か質問は?」と問われたので,二つ聞く。一つ目は人工呼吸器について。意識がなくて人工呼吸器にお任せの時はよいが,意識が回復してくると,自分のやりたい呼吸のペースと人工呼吸器のペースが合わずに,例えば,こちらが息を吐こうとしたときに向こうも吐いてくる,といったことにならないかと聞くと,それはないとのこと。人工呼吸器がこちらのペースに合わせてくれるそうだ。
 二つ目として,全身麻酔下で夢は見るのか聞いてみる。全身麻酔をかけられると,ストーリー性のある夢を見るレム睡眠より深い眠りに落ち,夢は見ないのではないかと思ったのだ。ところが意外なことに,人によっては見ることもあるそうだ。できれば,三途の川を見たり,美しい光を見たりといった臨死体験ができれば最高なのだが,脳が低酸素状態になるわけでもないので,それは無理だろう(脳が低酸素状態になるのも困るが)。しかしそこまでいかなくても,なにか夢を見ることがあるのなら,普段の夢とどう違うのか,ぜひ覚えておきたいものだと思った。今回,全身麻酔下の手術を受けるにあたっての,最大のお楽しみだ。
 また私は子供の頃から,全身麻酔に関して妄想をたくましくすることがあった。それは,実は,全身麻酔というのは痛みを全て感じているのだが,それを表現することが出来なくなっているだけなのではないか? そして記憶も失うので,覚醒後は術中の地獄の苦しみを忘れているだけなのではないか? こんな風な妄想をふくらませていたことがあるのは私だけであろうか? まあ,しかし,あらゆる種類の記憶が一切なければ主観的な「痛み」も存在しないだろうから,こんなことはあり得ないのだが。(12.07.27追記:このような妄想をするのは私だけではないようだ。「アウェイク(Awake)」という2007年の米国のホラー映画は,正にこのような状態,すなわち,完全に覚醒して痛みも感じているにもかかわらず体だけが動かない状態で心臓移植手術を受けるという話であるようだ。)

 その後,ABI(Ankle Brachial Pressure Index)という,両手足の血圧を同時に測る検査。(足首の血圧) /(腕の血圧)は正常値が1~1.3で,0.9以下だと,下肢の動脈に狭窄・閉塞が疑われるそうだ。終わった後,測定器をチラッと覗くと,足の血圧が140台だったような気がする。私の普段の腕の血圧は115くらいなので,ABI=1.25くらいで,正常ということなんだろう。特に何も言われなかった。
 昨日,血尿のことを言ったので,尿検査もやる。

 手術に備えて,売店でT字帯(ふんどし)と浴衣を購入。手術直後は他人(看護師)が脱着させるので,パンツとパジャマはNG。
 しかし,ここ日本海大学病院に限った話ではないようだが,浴衣はまだしも,なぜ,T字帯を売店で購入しなければならないのか理解に苦しむ。必要に応じて病院側で用意してくれればよいと思うのだが。自分で用意するとなると,つい万一のことを考えて,多目に買ってしまい,無駄が出る。
 食事の時,自分で持参した箸を使うというのも不思議な習慣だ。食事の後,毎回洗うのも面倒臭い。中には,湯飲みの中のお茶でジャブジャブと軽くすすいでお仕舞いにする爺様もいらっしゃるが,衛生面でどうなんだろう? 私は手術前は持参の塗り箸を使っていたが,手術後は割り箸を使い捨てにしていた。

 風呂に入ったが,一人30分なので,シャワーだけで済ます。湯船にお湯を貯めているうちに20分くらいたってしまいそうだ。今は夏だから全く問題ないが,冬だと辛そう。冬は患者さん同士で連携して,前の人にお湯を貯めておいてもらったりするようだ。しかし,和式の湯船なので,1回1回お湯を捨てるのも,何かもったいない感じだ。もちろん衛生面で,病人同士が同じお湯に入るのは問題があるだろうが。

 のんびりできるかと思ったが,何となくバタバタしているうちに一日が終わってしまった感じ。

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入院

7月9日(木)

 入院の日。入院というのは,20歳くらいの時に一度だけ,軽い病気で1週間ほどして以来である。結局,入院まで心不全のような症状らしい症状はなく,心房細動の発作も初回の一発のみ。薬も何も飲んでいない。手術は当初の予定通り,来週の月曜日。

 病院についたのは午後1時か2時頃だったと思う。大繁盛店だけに,入院手続きだけでもかなりの時間待たされる。

 7人部屋の病室に着くと,当たり前だが皆さん寝ている。つらいのを我慢しているとしたら,下手に声をかけない方が良いかとも思って迷ったのだが,恐る恐る挨拶をすると,皆さん意外と元気に応じてくれた。総合病院なので,この部屋に心臓病の患者だけが集まっているわけではない。
 病院によっては,大部屋でも昼間から仕切りのカーテンを閉め切りにし,退院まで同室の人の顔を一度も見なかったとか,個人情報保護のため病室前の名札もなくしている所もあると聞いたが,ここではそういうことはない。この大学病院の校風(院風?)は,万事おおらかで,細かい事にはあまりこだわらない感じだ。
 ベッドは極狭で,幅が75cm程度しかない。ベッド脇も椅子を1脚置くスペースしかない。しかし狭くても,同僚達があくせく働いているこの時期に,これからしばらくの間,手術があるとはいえ,のんびり過ごせるかと思うと,開放感で心は広々とする。
 窓からの眺めは,最悪で,コンクリートのビルの壁しか見えない。廊下の反対側の病室なら,目の前の大きな神社の木々が見えて良かったのだが。

 受け持ち看護師の加賀見さんがやってくる。加賀見さんはなかなかの美人のように見受けるが,マスクを最後まで外さなかったのでついに素顔を拝むことは出来なかった。ただ,受け持ち看護師といっても,実際の担当看護師は,毎日,昼夜交代するので,受け持ちの看護師さんに特に多く担当してもらえるというわけではない。多分,私に関する書類の管理などは受け持ちの加賀見さんがやっているのだろう。
 加賀見さんから病院内での生活について説明を受ける。夜は9時消灯で,10時くらいまではカーテンを閉めておけばテレビを見ていても(テレビは必ずイヤホンで聴く),お目こぼしをしてくれるそうだ。どっちにしても,普段の生活からすれば,眠くなる時間ではない。
 手術前には,一度荷物を家族に持って帰ってもらうことになるそうだ。これは計算外だった。私は,なるべく家族らに迷惑をかけずに済むようにと思い,大きなスーツケースに下着の着替えもたっぷり入れてきたのだが,そんな配慮も無駄だった。考えてみればもっともである。手術後はICU(集中治療室)で標準的には2泊3日過ごすが,この日数は当然,確定しているわけではないので,その間,私のベッドを開けて待っているわけにはいかないだろう。だとすれば,その間,荷物を置いておくわけにはいかない。結局,心臓手術となると家族らに迷惑をかけないわけにはいかない。
 そして腕に,氏名,バーコード,ID番号が記されたリストバンドをはめられる。家畜になった気分。しかし,大勢の患者の中で,取り違えされるよりマシだ。採血や点滴も全て,このリストバンドのバーコードを読み取って管理される。
 風呂は,男が月,水,金,女が火,木,土で,日曜は男も女も入れるという割り振りだが,手術の前日の晩は男女の別なく優先的に入らせてもらえる。

 また,尿をカップラーメン程度の大きさのカップに受け,専用の測定器に流し込んで,一日の尿量を測定しなければならない。測定器のボタンを押す→蓋が開く→中に尿を入れる→蓋が閉じて尿量を測定となるが,これが病人でも慌てず操作できるように,非常にゆっくりと動作するようにしてあるので,結構待ちくたびれるし,面倒臭い。これは退院の日まで続いた。
 尿をカップに貯めて見ると,尿の色がほうじ茶のような色をしている。そういえば,6月後半に血尿が出たことがあったので,念のため看護師さんにその旨伝えておく。

 しばらくすると,今度は若くてかわいらしい女医さんがやってきた。病棟主治医の先生かと思って聞くと,「徳森チームの研修医の安木です」という答。病棟主治医は徳森先生だが,この病棟ではチーム医療制をとっていて,チーム全員で受け持ち患者を診ていくのだそうだ。実際,多くの先生に診てもらったが,看護師さんの場合,担当が変わる度に,例えば「夜担当の○○です」というように自己紹介してくれるので名前を覚えられるが,先生方はいちいち名を名乗ったりしないので,名前が分かる先生はごくわずかである。
 安木先生からは,お決まりの,万一の時の輸血のリスク,静脈血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)の予防,褥瘡(床擦れ)発生の危険性,手術で切り取った組織を教育,研究に使用すること等の説明を受け,同意書にサインをした。まあ,切り取った組織の教育,研究への利用という事以外は,不同意という選択肢はどう考えてもないのだが。

 一通りの説明を受け,家族らも帰ったので,ベッド脇にパイプ椅子を持ってきて本を読み始める。今回の入院に際して,一つ,心に堅く決めたことがあった。それは,少なくとも手術前は,夜寝るとき以外は病院患者のユニフォーム,パジャマにならないということである。どうも昼間からパジャマでいるのは病気になったような感じがして嫌いだし(あっ,病気だった),パジャマになるとつい寝たくなる。ただでさえ消灯時間が早いのに,昼寝までしてしまったら,夜寝られなくて昼夜逆転の生活になってしまうだろう。というわけで,外出着のまま椅子に座っていた。

 ところが,である。私の隣10cmのところにベッドがあるのだ。私の岩のように固い決意も,ベッドの甘い誘惑には30分と耐えることが出来なかった。結局パジャマに着替えると,ベッドに潜り込み,すぐに眠りに落ちてしまった。

 食事に関しては,20年前に一度入院したときも冷めたまずい食事だったし,病院食などそんなものと思いこんでいたが,これが意外にうまい。まず,温かいものが温かいままに出てくるし,1日6gの減塩食の割に味も素朴ながらしっかりついている。ただ,朝食に出てくるパンだけはまずい。無塩パンというやつなのだが,これがボソボソで口の中の唾液を全て吸い取ってしまうような,味も素っ気もない代物だ。パンに塩が必須だとは知らなかった。しかしそれ以外は,期待値が異常に低かったせいもあるが,どれも美味しくいただけた,最初のうちは・・・

 時間通り,夜9時に消灯される。昼寝もしてしまったし,寝られるわけがないと思っていたが,すぐに寝てしまった。

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Author:キチンハート
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