7月11日(土)
朝は,万一の場合の輸血に備え,血液の適合性(抗体反応)を調べる「交差適合試験」用の血を採る。
今日の予定は,家族らを交えての,執刀医の仁田先生からの手術の説明,いわゆるムンテラ(Mund Therapie=「口療法」を意味する和製独語が語源らしい)と,泌尿器科でエコー検査。泌尿器科のエコー検査は,血尿のため。説明不足だったかもしれないが,血尿といっても,パンツに血が一滴付いていたという程度。ただ,カップに受けた尿の色は相変わらず,濃いほうじ茶のような色をしている。
内科の有野先生が,わざわざ病室まで来てくれて,
冠動脈CTの結果,冠動脈はキレイで全く問題なかったと教えてくれる。(有野先生が来てくれたのは,昨日の金曜だったかもしれない。)
般若心経まで暗記して,不足の事態への対応を準備してきた
剃毛は,やらないそうだ。\(^_^)/ 頭の手術でも頭髪を残したまま手術する例も出てきているらしいので,この習慣は,本当に必要な場合を除いて徐々になくなっていくのだろう。ただ私は,夏にしばらく風呂に入れないのも気持ち悪いし,下の毛も剃るのだからついでにと,頭を丸坊主にしてしまったのだが。
泌尿器科のエコーを除けば,心臓関連の検査は昨日で全て終わったことになるので,これまでの検査をまとめてみると,レントゲン,心電図,血液検査のような日常的な軽い検査を除けば,
(1) 経胸壁心エコー検査 (2/12, 5/14)
(2) 経食道心エコー検査 (2/23)
(3) 肺機能検査 (6/25)
(4) 頭部と胸部のCT検査 (6/25)
(5) 頸動脈エコー検査 (7/3)
(6) 冠動脈造影CT検査 (7/8)
(7) ABI検査(足関節上腕血圧比) (7/10)
となる。
家族らがそろい,仁田先生の説明の約束の時間になると,看護師さんが呼びに来てくれる。そのまま家族共々ぞろぞろと看護師さんの後についていくと,泌尿器科の外来に連れて行かれる。あれ? てっきり,仁田先生の所に行くのかと思っていたが,泌尿器科のエコー検査に呼ばれたようだ。
「この時間は,仁田先生から手術前の説明を受ける事になっていたんですが」
と看護師さんに言うと,
「仁田先生の所には,これから私が行って伝えておきますので,こちらを先に済ませて下さい」
とのことで,先に泌尿器科のエコー検査を受けることになる。
土曜の午後ということで外来患者はいなかったので,すぐに呼ばれる。ベッドに仰向けになり,パンツをちょっとずりおろし,心エコーと同じような感じで膀胱の辺りをグリグリと調べ,すぐに検査終了。エコーでは特に問題は見つからなかったようで,もし何か問題があっても手術後に治療すればよいとのこと。特に心配はしていなかったが,そう言ってもらえると一層安心だ。
次に,いつもは混んでいるが,こちらも土曜の午後なのでガランとしている第二外科の外来診察室に向かい,仁田先生の説明を受ける。本来の目的であった,
僧帽弁閉鎖不全症(severe)に対する
僧帽弁形成術の事よりも,今はむしろ,
大動脈弁閉鎖不全症(moderate)をどうするかの方に関心がある。仁田先生もまず,この大動脈閉鎖不全症に関する話から始めた。
結論から言うと,今回は,
大動脈弁閉鎖不全症に対する治療は何もしない。理由は次のようである。まず,私の大動脈閉鎖不全症に対する見立ては,治療せずに放置した場合,将来,手術が必要になる可能性も高いが,死ぬまでこのまま悪化せずにもつ可能性もあるといった感じだそうだ。治療を行うためには,治療を行った方が利益が大きくなる見込みがなければならない。
まず前に話があった,
大動脈弁形成術は,いまだ術後遠隔期の成績が不明で,将来,再手術になる見込みが大きい。放置すればもしかすれば一生もつかもしれないのに,
大動脈弁形成術を施した結果,再手術の確率が高くなるというのでは,手術をする意味がない。
私は,弁輪縫縮くらいなら耐久性の問題はないかと期待していたが,そうでもないようだ。
また,
生体弁への置換という選択は,これまた,確実に再手術が必要になるので,論外。
機械弁への置換という選択は,この先一生,定期的な病院通いとワーファリンの服用が必要となることによる生活の質(QOL)の低下を考えると,現状では得策ではない。
ということで,
大動脈弁閉鎖不全症に関しては,今はこのまま放置するのがよいだろうという結論だ。この説明には納得できた。しかし,もともと顔つきがボーッとしていることもあり,無表情だったのだろうか,仁田先生には
「何か不満? もっとすごいことをやると思った?(^_^)」
と言われてしまったが,そんなことはない。むしろ「外科医は何でも切りたがる」という先入観あるので,こういう放置という選択には感謝しているし,自分の業績やスキルアップよりも患者の利益を優先してくれているようで信頼感が増した。
「外科医としては,
大動脈弁形成術にチャレンジしたい気持ちはあるんですが」
と言っていたが,それはそうだろう。また,仁田先生が何気なく口にした
「昔は,冒険的な手術をどんどんやるような風潮もあったんですけどね,今はそういう時代じゃないから」
という一言は,私には,7月4日に書いた榊原仟のエピソードを思い起こさせるものがあった。
また仁田先生の話では,
機械弁はある程度完成の域に達していて,この先,劇的に性能を上げていくと言うことは期待しにくいが,
生体弁の方は,現在も研究が進行中で,まだまだ性能が上がっていくことが期待できるそうだ。あと10年もすれば,
大動脈弁形成術の耐久性も段々明らかになってくるだろうし,手術手技も改良されているだろう。こういう事を考えても,今すぐ大動脈弁に手を加えないという選択は良さそうだ。
ただ,万一
僧帽弁形成術がうまくいかずに,人工弁に置換せざるを得ない場合には,私の希望は
機械弁で,どうせワーファリンが必要になるため,そのときは大動脈弁も
機械弁に置換してしまおうという話になった。その場合は,以前に決めた通り,
ON-X弁でお願いすることを確認する。
このような選択に私自身十分納得し,満足しているのだが,ただ一つの不満は,説明の手続きについてである。私は,治療と放置で迷うような場面では放置を選ぶ方が好きなので,今回の結論に満足しているが,仮に仁田先生が
大動脈弁形成術に積極的な考えをもっていて,バリバリに形成するという選択を示したとしても,手術2日前では拒否する事は難しいだろう。患者が治療法を選択できるためには,やはりもう少し早く執刀医から説明を受けられる体制になっていた方がうれしいと思う。例えば,
大動脈弁閉鎖不全症が分かった5月時点で,今回のような説明を受けていたとしたら,その結論を受け入れる前提で,念のために
大動脈弁形成術に積極的な医師のセカンドオピニオンを受けてみるということも(実際の私のスケジュール的には無理だったと思うが,仮に私が年金生活をしていて,時間がたっぷりあったとしたら)できたと思う。その意味で3月9日に書いたような不満は,私のわがままではないと思っている。
だったら直接,仁田先生にそう言えばいいと思うかもしれないが,手術直前に執刀医の機嫌を損ねかねないようなことを言う勇気はありませんでした。orz
希望的観測として,わずか3ヶ月の間に,
大動脈弁閉鎖不全症がtrivialな逆流があるかないか(±)という程度から,mildを飛び越えて,一気にmoderateに二階級特進しているので,簡単に悪化したものは簡単に治るのではないかと思い,
「
僧帽弁閉鎖不全症を治す」
→「心臓が小さくなる」
→「大動脈弁輪が小さくなって大動脈弁がキチッと合わさるようになり,
大動脈弁閉鎖不全症が治る」
ということにならないか聞いてみるが,残念ながらそういうことは期待できないそうだ。この逆過程:
「大動脈弁閉鎖不全症になる」
→「心臓が肥大化」
→「
僧帽弁閉鎖不全症になる」
はよく起こるそうだが,残念ながらこの過程は不可逆過程のようだ。
当日は,7時半~8時ごろ手術室に向かい,午前9時~9時半に手術を開始し,予定手術時間は4~5時間という。
また,心房細動に対する
ラディアル手術は,慢性心房細動を含めて成功率9割弱だが,術後,”一時的”に心房細動が現れる確率は,日本海大学病院の場合には,4割程度という。意外に高率に思えるが,切られたり焼かれたり凍結されたりすれば,心臓も落ち着きを取り戻すのに時間がかかるのだろう。その場合には,アミオダロン(商品名アンカロン)で押さえるという。
手術後,ICUで目覚めたときには,たくさんの管が体についたスパゲッティー状態になっているが,その管の種類,数として,カムバックハートさんのブログからプリントアウトしたものをあらかじめ用意しておき(http://comebackheart.blog14.fc2.com/blog-entry-14.html)
「これ↓↓↓と同じですか」
1. 胃の管(胃の中のものを出し、吐き気を防ぐ、鼻から食道経由で胃へ)
2. 人工呼吸器の管(口から気管内へ)
3. スワンガンツカテーテル(心臓の機能を見る管、首から心臓へ)
4. 中心静脈ライン(心臓に薬や栄養を点滴する管、首から心臓へ)
5. 動脈ライン(血圧測定、採血用、左手首)
6. ドレーン2本 (術部からの出血を外に出す管、腹部)
7. 尿道留置カテーテル(おしっこの管)
8. 点滴(抗生剤や水分補給、左手首)
9. 体外式ペースメーカー用のリード線(不整脈や脈が遅い時に使う、腹部)
と聞くと,3番のスワンガンツカテーテルは,この病院では最近はやらなくなったとのこと。スワンガンツカテーテル(肺動脈カテーテル←Wiki)とは,カムバックハートさんも書いているように,首の静脈から心臓に測定器をつっこむという一番恐ろしげな管なので,これがないというのはちょっとうれしい。さらには,1番の胃の管も多分やらないだろうとのこと。あとは同じだそうだ。目覚めたときの管についてあらかじめ知っておけるというのもありがたいことだ。細かく書いておいてくれたカムバックハートさんにはあらためて感謝だ。
私が聞きたかったことはこのくらいで,あとは,家族らもいるので,お決まりの,
僧帽弁閉鎖不全症,
僧帽弁形成術,置換術,
ラディアル手術や,そのリスクについての説明を受ける。リスクについての説明が続き,私は平気なのだが,母が不安になるのではないかなと,そっちの方がちょっと気がかりだったが,一通りのリスクを説明し終えると,仁田先生は
「まあ,でも,私はこういう手術はたくさんやっていますから,大丈夫ですよ」
と言ってくれる。最近は医療訴訟に備え,医師が患者に対して「大丈夫」と言うことは禁句になっているということも聞くが,仁田先生は結構大胆に色々な場面で「大丈夫」という言葉を使う。
ただ,後で母に聞くと,耳が遠いので仁田先生が何を言っているかよく分からなかったとのこと。そもそもそれ以前に,どうせ聞いても分からないと,はなから諦めて,なんとなく頷いていただけのようだ。医師からすれば困った家族だ。
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