8月21日(金) 手術後39日目
体調が悪く,来月からの仕事復帰は無理だと思うようになってきたが,それなら復帰出来るのはいつ頃になりそうなのかを聞きたくて,予約はないが,待つのを覚悟で日本海大学病院の仁田先生の外来に向かった。バスと電車を乗り継いで行く自信がないので,タクシーを使う。往復7500円以上かかったが,このタクシー代は年末の確定申告で医療費控除に含めることが出来る。だが,そうとは知らず,レシートは捨ててしまった。
お決まりの,血液検査,レントゲン,心電図の検査三点セットを済ませ,待合所で診察を待っていると,入院時に何回か廊下ですれ違って顔見知りになっていた爺様が偶然隣にやってきた。
「元気そうでイイね」
と言われたので,
「いや,あんまり元気じゃないんですよ」
と答えたが,
「いいや,おたくは元気だよ。俺なんかダメだけど,あんたは元気だ」
とありがたいお墨付きをいただけた。(^_^;)
ほどなくして意外に早く診察室に呼ばれた。
体調不良で微熱が出ること,ミノマイシンの副作用を疑って一回止めてみたら,かえって熱が上がってしまったこと,ついでに,あまり気にはしていないが,脈拍も110bpm以上あることなどを訴えた。
しかし検査の結果は,CRP(炎症反応)が0.10mg/dl,白血球数が5600個/μlと完全なる正常値で,聴診による心音も正常,心嚢水も抜けて,レントゲンも異常なしどころか,術後わずか1ヶ月にして,心臓は早くも小さくなり始めているという。赤血球数等が少な目でやや貧血気味だが,問題になるようなレベルではない。兎に角,あらゆる検査データが「正常」であることを示していた。診察室で体温を測ったら37.0℃で,辛うじて全くの健康状態でないことを示していた。正直言って,体温計が微熱を示しているのを見たときにはホッとした。これで体温まで平熱だったら,なんだが屁のような不調を大袈裟に騒ぎ立てている単なる「文句ったれ」になってしまう。
気のせいかもしれないが,ミノマイシンに不信感を持ってしまったので,出来たら他の薬に変えてもらえないか頼んでみると,仁田先生は薬の本を取り出して,長考に入ってしまった。病棟主治医だった徳森先生にも電話をして,相談している。
「ミノマイシンがどうも合わないらしいと言うんだけど,他に何かいい薬あるかなあ?」
「ペニシリン(?)かぁ,うーん・・・」
「どうしようか? もう一回血培(血液培養)やってみるか?」
(えー,またー。パンツ脱がされて恥ずかしいし,怖いし,やだなー。( ̄。 ̄;))
「でも(血培を採ったって細菌は)出ないよなー」
(そうだ,出ない,出ない(;-_-) =3)
なとど電話で話をしていたが,症状がないのだから明確な対処法も見つからない。内科の主治医だった有野先生はアメリカに留学に行ってしまったそうで,もうこの病院にはいないそうだが,
「一度,内科の意見も聞いてみたいなぁ」
と,対応に苦慮しているようだった。
とりあえず,来週火曜にもう一度,経胸壁心エコー検査はしてみることにする。
仁田先生は悠然と本のページを捲りながら考えていたが,刻々と経過する時間の中で,私一人で診察時間を大幅に食っていることに心苦しさを感じ始めていた。診察時間は一人平均7~8分だが,私の場合はいつも話が長引いて倍程の時間を食ってしまっている。しかし,今日は倍どころの話ではない。
仁田先生はなおも考え込んでいたが,時間も気になっていたので,一番知りたかった質問をする。
「今の調子だと,再来週からの仕事復帰は無理だと思うのですが,いつ頃から復帰出来るでしょうか?」
こんな事を聞かれても,医師の方も答に窮するだろうとは思ったが,私の方としても,医師の診断がなければ職場に事情を説明しようがない。仁田先生の答は
「まずは,エコーの結果を見てから考えましょう」
というものだった。しかしそれでは,仁田先生の外来は金曜のみなので,来週の金曜まで結論持ち越しとなってしまい,再来週月曜からの復帰予定日に近すぎる。復帰不可能なら,私の代わりの人間を手配してもらうためにも,もう少し時間的余裕が欲しい。なんとか現時点での判断を聞かせてもらえないかと食い下がったが,
「医師としては,エコーの結果を見ないことには何とも言えないんですよ」
という正論の前には,引き下がるより他ない。
リハビリ運動に関しても,社会復帰への焦りから,無理のない範囲での最大限のリハビリをやりたいとの思いがあるのだが,それがどの程度の運動量になるのか分からなくなっていた。脈拍120bpm程度というおおざっぱな目安でなくて,厳密な最適運動量が知りたいと思い,心臓リハビリ科を設けている他病院への紹介状を書いてもらえるようお願いしたが,仁田先生の答は,その病院はよく知っているし,良い病院であり,紹介状はいつでも書くが,心臓リハビリというのは,主に狭心症や心筋梗塞等の血管系の患者のためのものであり,今の私の問題には直接関係ないので,まずは今の問題を解決してからにしましょうとの事だった。それに,心臓リハビリ設備自体は日本海大学病院にもあるとのことだった。
心臓専門病院で弁膜症の手術を受けた患者さんのネット上の体験記では,術後にエアロバイク等を使ったリハビリ運動をさせられる話などをよく見かけたので,特にそのようなリハビリ運動をさせられなかった日本海大学病院には心臓リハビリ設備がないものと思っていたのだが,対象者を絞ってやっているようだ。
自分でも,今さら専門家からリハビリの処方をしてもらっても,9月の仕事復帰には間に合わないだろうから無駄かな,という思いもあったので,そう言われれば異存はない。
薬に関しては,やはりミノマイシンを継続することとなった。抗生物質には殺菌的な働きをするものと静菌的な働きをするものがあり,ミノマイシンは後者だそうだ。殺菌的とは文字通り菌を殺す働きで,静菌的とは細菌の増殖を抑えるだけで,殺すのは自分の免疫力に任せるというものらしい。殺菌的な強い抗生物質を長い間使い続けると,その薬が効かない細菌が増えてきたりするので具合が悪いとのことで,結局,今まで通りとなったが,ここまで熟慮してくれた上に理由を説明してくれれば,迷いなく飲み続けられる。
ワーファリンは3.5mgから3.0mgへと減量となった。
診察室には45分程居ただろうか? 出てきたときには,待っている患者さんの視線が一斉に自分に向けられたような気がした。
「いつまでグズグズやってんだ,コイツは」
という非難が込められているように感じたのは私の被害妄想だったろうか?
仕事先には事情をありのまま説明して,とりあえず1週間,休みを延長させてもらい,その後の事は来週金曜の診察後に相談することにした。
会計を済ませたのが11時と病院の昼食時までにまだ余裕があったので,先週まで入院していた病室へ向かった。当然,すでに退院していた人もいるが,私が居た部屋には,入院が長引いていた人もいた。入院患者や看護師さんから
「元気そうだ」
と口々に言われたが,私から見れば入院している人の方が元気そうだ。まだ相変わらず微熱が引かず,体調が悪いと言うと,
「そうか,やっぱり退院が早かったんだよ。もう少し入院してれば良かったんだな。ちょうどそこのベッドが空いたから,帰ってくれば。」
と嬉しそうに言われた。(^_^;)
↑↑↑ランキング参加中です。清き一クリックをお願いします。