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発作性心房細動の発症を機に心臓弁膜症(僧帽弁閉鎖不全症)が見つかり,弁形成手術と心房細動に対するメイズ手術(ラディアル手術)を受け,さらに術後に発症した感染性心内膜炎の治療を受けた記録です。

ポンプヘッド

(前回のつづき)
 前回の日記に書いたように,手術に対する心理的障壁はどんどんなくなっていき,心臓を止めるという未知の体験に何かワクワクした気持ちさえ持ち始めていたところ,そんな楽天的気分に冷や水をぶっかけるような記事を見つけてしまった。

「人工心肺が認知障害を招く?」(B. Statz著 日経サイエンス 2003年10月号 p85)
http://www.nikkei-science.com/page/magazine/0310/pump.html

という日経サイエンス(原論文は「Pumphead」Scientific American 2003年7月号)の記事や,「心臓手術の広場」というサイトの

http://www.geocities.jp/shin_zou_geka/topicinfarct.htm

という記事である。
 侵襲の大きい手術をした場合には,ICU症候群とか術後譫妄(せんもう)とよばれるような一時的認知障害,すなわち一時的痴呆状態になって,暴れたり,訳のわからないことを言ったりすることがある。ただし,これはあくまで一時的なもので,すぐに元の精神状態に戻れる。
 ところが上の記事によると,人工心肺を装着した患者には,手術後に持続的な軽い痴呆症状が出ることがあるというのである。
 具体的には,集中してものを考えられなくなる,記憶の所々が失われる,社会生活を送るのが困難になる,性格が変わるなどである。
 このような症状を心臓外科医達は内輪で「ポンプヘッド」とよんでいたそうだ(「ポンプ」とは人工心肺のこと)。
 アメリカのデューク大学のニューマン(M.F. Newman)たちは,冠動脈パイパス術を受けた患者261名を対象として,5つの認知力検査(短い物語を思い出す能力,並んだ数字の順番を繰り返して言う能力,視覚記憶の保持能力,数字と記号をペアにする能力,一連の数字や文字を関連づける能力)をして,ポンプヘッドという現象が本当にあるかどうかを調べた。その結果,手術前よりも認知機能が低下している患者の割合は,術後1週間で53%,術後6週間で36%,術後6ヶ月で24%となる。ここまでは,手術直後にいったん落ち込んだ認知機能が時間の経過とともに回復していることを表す順当な結果である。ところが,術後5年では42パーセントの(元)患者で非常に大きな成績の悪化が見られた。加齢による衰えの分を補正しても認知障害と診断されたという。つまり,一度回復に向かった認知障害が再度,悪化するというのである。
 ニューマンらがその原因として考えたのは
(1)人工心肺の使用によって生じた,気泡,血栓の破片,脂肪粒,その他微小な“ごみ”が脳を傷つける。
(2)人工心肺のポンプで血液細胞がつぶされたりして傷害される。
などである。
 このポンプヘッドという現象を否定する研究もあり,結論は出ていないが,気になる話だ。
 そもそも,弁膜症の手術,特に僧帽弁形成術の良い所は,術後にほとんどQOL(生活の質)を下げるような後遺症がない点である。だからこそ,手術に対してこんなにも積極的な気持ちになれていたというのに,4割もの患者に認知障害の後遺症が残るというのでは,ちょっと待ってくれと言いたくなる。
 ポンプヘッドという現象が本当にあるのかどうかは,上の記事が書かれた2003年段階では,評価サンプル数が少なすぎたり,評価方法に問題があったりで,確定的なことはわかっていない。そこで,米退役軍人省が1000万ドルを投じ,コロラド大学のグローバー(F.L. Grover)の指揮の下,2200人の患者を対象に,冠動脈バイバス術を,オンポンプ(人工心肺を用い,心臓を止めての手術)で行った場合とオフポンプ(人工心肺を使わず,心臓を動かしたままの手術)で行った場合とで術後の認知機能障害の発生に差があるか調べる研究が行われている。
 オフポンプの方がオンポンプよりも術後認知障害の発生率が少ないということになれば,その差の原因は人工心肺ということになり,ポンプヘッドの存在の証拠になる。この研究は2007年に終了予定だったそうである。ということは,もう終了しているはずなのだが,どなたかこの研究の結果をご存じの方がいらっしゃったら,お教えいただけないだろうか。

 そういえば,ネット上の体験談の中にも,術後,怒りっぽくなってしまったとか,極端に記憶力が落ちてしまったとかいう話を散見していたので,後日,たけしの部屋の掲示板で,そのような経験がないか質問をしてみた。
 最初,二人の方に,ポンプヘッドのような状態に心当たりがあるという回答をいただき,続けて5人の方には,全くそのような事はないという回答をいただいた(http://sinzobyo.com/cgi/heartbbs8/yybbs.cgi)。
 ちなみに,そのときの私の質問中,「術後,42パーセントの患者で20パーセント以上の認知力の低下が起こる」という記述があるが,今,手元の資料を見返しても,この20パーセントという数字の出所がわからない。何かの見間違いだったかもしれない。

 一時は,国立病院機構金沢医療センターで,「心拍動下弁膜症手術」(http://www.kanazawa-hosp.jp/service/shinzou/shinzou04.htm)というのをやっているのを知り,これがいいかと思ったこともあるが,これも心臓を停止させないというだけで,人工心肺にはつなぐようなので,興味を失った。

 まあ,あるかないかわからないことのために,心臓を犠牲にするわけにもいかないし,あるとしても,半数以上はその症状を免れているので,手術をためらう理由にはならないが,非常に興味深い話ではある。
 ちなみに,私は自分の認知機能の変化をチェックするため,ニンテンドーDSの「川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング」というのを買ってきて,術前,術後にやってみることにした。
 だたし断っておくが,私は最近の脳トレブームでいわれているような,「何々をすれば頭が良くなる」などという話を信じているわけではない。単純計算や音読で頭が良くなるなどというのは,仮説としては面白いかもしれないが,結論するには論理の飛躍がありすぎる(下記注1)。単純計算で頭が良くなるなら,レジなど使わず,一瞬で合計金額とお釣りの計算をしていた,昔の商店街のおっちゃん,おばちゃんは,天才揃いということになろう。
 ただ,自分で簡単に認知機能を数値化できる方法としては,上記のゲームソフトしかなかったというだけだ。上記ソフトは単純計算能力と単純記憶能力を得点化してくれる。
 この自己テストの結果については,7/25へ

追記:

2010年2月1日
ポンプヘッドについて,英語版Wikipediaに記載があった:

「Postperfusion syndrome」
http://en.wikipedia.org/wiki/Postperfusion_syndrome

これには,2007年終了予定の上記のグローバーらの研究結果は載っていないが,その他の研究の結果として,
「手術直後の認知障害は高率で発生するが,一時的なものであって永続するものではない。オフポンプとオンポンプの差は長期的には無視できるようになる。」という結果を引用している。つまり,ポンプヘッドはないようだと言っている。また,ネットでは概要しか読めないが,

Silvana et al.: No improvement in neurocognitive outcomes after off-pump versus on-pump coronary revascularisation:a meta-analysis: European Journal of Cardio-thoratic Surgery 33 (2008) 961
http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleURL&_udi=B6T35-4SB9DX5-3&_user=10&_coverDate=06%2F30%2F2008&_rdoc=1&_fmt=high&_orig=search&_sort=d&_docanchor=&view=c&_searchStrId=1188536132&_rerunOrigin=scholar.google&_acct=C000050221&_version=1&_urlVersion=0&_userid=10&md5=47cde51b9e454fd446817a664cb705da

でもオフポンプとオンポンプの差はないと結論されている。
その一方,

後藤倶子:神経麻酔,集中治療における脳および脊髄保護のための戦略:心臓麻酔における術前,周術期の脳保護戦略:日本臨床麻酔学会会誌 28 (2008) 535
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/28/4/535/_pdf/-char/ja/

では,オフポンプの方がオンポンプよりも,術後早期の高次脳機能障害の頻度は有意に低かった(11.2% vs 22.5%)としている。


2010年4月5日
(注1) 仏レンヌ大学の認知心理学教授、Alain Lieury氏が10歳児を対象に行った研究では,「脳を鍛える大人のDSトレーニング」に脳を鍛える特段の効果はなかったという。Times Onlineによると、Lieury氏は、「ニンテンドーDSは優れた技術でできている。ゲームとしてはすばらしい。だが、科学的なテストだと主張するのはいんちきだ」とコメントしているという。
http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000056025,20387127,00.htm

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勇気凜凜瑠璃の色

 2月後半。この頃,ネットで体験記を探しては読み漁る。すると,手術を受けるということのイメージが大体つかめてくる。体験記を書いて下さった方々には本当に感謝している。中でも,カムバックハートさんのブログ(http://comebackheart.blog14.fc2.com/)は,手術前後の様子を詳細に描いてくれていて,大変役立った。イメージがつかめてくると,手術そのものへの恐怖はだんだんなくなってきた。しかし,手術への恐怖はなくなっても,死への恐怖はなくならない。弁膜症の手術死の確率は,3~4%(注1),弁形成だけに限れば1%にも満たない程度で,この程度の確率は第三者的には「ほとんど起こらない」現象と思うのかもしれないが,当事者としたら十分「起こりうる」現象に感じられる。手術への恐怖と死への恐怖は似て非なるもので,手術への恐怖というのは,単に体を傷つけられる苦痛に対する恐怖だ。この違いは,死の可能性を意識しない抜歯が,あるいはもっと極端には,注射が怖い(私だけ?)ということを考えればわかる。苦痛への恐怖は,「実はたいした苦痛ではない」と教えてくれる体験記が緩和してくれるが,死への恐怖は,死んだ人が体験記を書いてくれるわけではないので,全く減らない。危うく死にそうになった人が臨死体験を語ることはあるが,これも「死ぬ間際は気持ちいい夢を見ていてそれほど苦痛ではないかもしれない」と,苦痛への恐怖を和らげてはくれるが,死後,自分が未来永劫消滅してしまうという死そのものへの恐怖は微動だにしない。とにかく私は死ぬのが死ぬほど怖い。いや,別にこの世に未練があるわけではないし,むしろ生きているのも面倒臭くて嫌なのだが,それでも死ぬのだけは死んでも嫌だ。この恐怖心だけはどうしようもなかった。
 しかし,私も40歳を超え,体の保証期間は過ぎ,あちこち故障が出始める。100年前ならもう寿命である。人生80年の現代にあっても,40歳といえば,人生を折り返し,遠方の視界には死がその姿を現し始めている。いつか必ずやってくる死であるが,これほどまでに死を恐れている私がいきなり死に直面してしまったら,ショックで死んでしまうかもしれない。で,今回の心臓手術である。死の確率,1%足らず。死の恐怖も1/100に薄められていると考えて良いだろう。ちょうど良いではないか。いつか本番の死に臨む前に,ここらで1/100に薄められた死の恐怖を味わう機会が得られたということは,ひとより得をしているのではないか。「得をする」ことが大好きな私は,この考えがたいそう気に入って,以来,死の恐怖を積極的に味わい尽くしてやろうと「さあ来い,ほら来い,どんと来い」と待ちかまえるようになった。ところが人生は皮肉なもので,待ちかまえていると一向にやってこない。もっとじっくり味わいたかった薄められた死への恐怖も生憎,尻すぼみになっていってしまった。

 残る問題は,母親への報告である。他の方の体験記の中に,親に手術を報告し,母親に泣かれたとかいうような体験を見受けることがある。私にも80歳を過ぎた母親がいるが,80の婆さんに「息子が心臓手術」というのは少し刺激が強いかなという気がした。かといって黙っているわけにもいかないが,問題はどのタイミングで報告するかということである。なるべく報告の時期を引き延ばして,全部完全に決まった段階で知らせるというのも一つの戦術ではあるが,わたしが採ったのは,「ひょっとしたら手術ということもあるかもしれない」→「手術の可能性がある」→「手術するんじゃないかなあ」→「手術する」と徐々に手術という現実にならしていって,気がついたら手術を受け入れていたという風にする戦術である。そこで,ある日
「今,病院で検査してるんだけど,あるいはひょっとすると心臓を手術することになるかもしれない。」
と切り出した。
「心臓のどこが悪いの?」
「心臓の弁の具合がちょっと悪いみたい」
弁膜症なの?」
まさか,80過ぎの婆さんから,私が一月前まで知らなかった「弁膜症」という単語が飛び出してくるとは思いもよらなかった。さすが,常日頃「長生きはしたくない」と言いながら,「本当は怖い何とか」とか「主治医の見つかる何とか」とか,その他ありとあらゆるテレビの健康番組をチェックして,体にいいと言われたことは全て実行している(ただし長続きはしないので実害はなし)だけのことはある。
「そう。まあ,仮に手術になっても,今の医療技術は進歩していて,死ぬ可能性はほとんどゼロみたいだけどね。」
「手術は全身麻酔なんでしょ?」
「そりゃそうだ。」
「ならいいじゃない。手術が失敗したって,何にもわからないうちに楽に死んじゃうんだから。」
「ん? ハハ,そうね・・・」
いやー,しめっぽいことにならずに助かった。

 このように,手術に対する心理的障壁はどんどんなくなっていき,心臓を止めるという未知の体験になにかワクワクした気持ちさえ持ち始め,勇気凜凜瑠璃の色という感じでいたところ・・・
(つづく)

(注1) 重症僧帽弁閉鎖不全症を治療せずに放置していた場合に心臓死する確率も1年で4%程度(http://www.geocities.jp/shin_zou_geka/mr1.htm)

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夏に手術を

2月24日(火)

 第一内科有野先生の外来の日。エコー検査の結果は,severeに近いmoderateな僧帽弁閉鎖不全症。弁がきちんと閉鎖しないため生じる血液の逆流の度合いを,trivial(ほんのわずか),mild(少し),moderate(穏やか),severe(たくさん)の4段階に分けたときの,4段階目に近い3段階目ということだ。近所の病院での検査では,軽症,中等症,重症の3段階に分けたときの重症という診断だったが,3段階に分けるのと4段階に分けるのでは,基準が微妙に違うし,そのときの体調による差もあるだろう。severeに近いとはいえ,moderateとの評価は,最悪でないという意味でちょっとうれしい。しかし,弁を支える腱索というひもが切れてしまっているそうだ(ただ,手術後に執刀医から聞いた話では,腱索は伸びきっていたが,切れてはいなかったそうだ)。切れた腱索が自然につながることはないので,早晩手術は避けられない。ただその時期は,完全に逆流がsevereになってからでもよいということなのだろう,有野先生には3ヶ月ごとのエコーによる経過観察をしていきましょうと言われる。それはいいとしても,私としては,経過観察をしていって,いきなり2,3ヶ月後に手術をしましょうといわれても,仕事のスケジュール上,困る。仕事が比較的暇になる来年1月後半あたりを手術の時期と考えていて良いかと尋ねると,来年まで手術を引き延ばすのは勧められないという回答。確かに,朝青龍の天敵,内舘牧子氏も昨年(2008年)12月に弁膜症で倒れたというニュースが最近あったが,内舘氏の軽い心臓疾患が見つかったのが2008年春で,その後経過観察をしていたとのことなので,私も手術をしなければ今年中に倒れる可能性もあるわけか。(ただし,この2008年春というのはネット情報なので真偽不明)  ならば,まだスケジュールを埋めていない7月に手術をする方向でお願いします,ということになる。7月に手術をすれば,9月には仕事に復帰できるとのこと。本当は,夏は忙しいのだが,あきらめるしかない。しかし,もともと蒸し暑い夏は大嫌いなので,その夏の2ヶ月,仕事をせずに療養できると思うとちょっとうれしい気がしないでもない。ここで,2/13の記事に書いたように,懸案の執刀医について聞いてみる。
「あのー,執刀して下さる先生についてなんですが,・・・」
「ああ,ウチには沖先生と仁田先生という二人のエースがいるんですけどね,キチンハートさんの病気は,仁田先生の専門ですから,仁田先生にお願いするのがいいでしょう。」
と,こちらから指名するまでもなく,希望通り仁田先生に決まる。で,一度,外科の仁田先生の外来(金曜日)に行ってみたらいいと言うことで,紹介状をサラサラと書いてくれる。同じ病院でも科が違うと紹介状が必要であるようだ。大学病院って面倒くさい。
 両尖逸脱ということで弁置換の可能性が増すのではないかと心配していた件については,弁形成で問題ないようだ。
 私が頼んだわけではないが,有野先生は,「何かわからないことがあったら聞いて下さい」と言って,エコーの結果を示した報告書のコピーをくれた。ところが,筆記体もどきの癖のある英文は判読不能。しかし不思議なもので,何ヶ月かかけて,こちらの知識が増えてくると,最初読めなかった文字も読めるようになってくる。読めるようになった後で見てみると,総合所見としては
(1)左室のasynergy(後部)
(2)僧帽弁逸脱に伴う僧帽弁閉鎖不全症(moderate)
(3)左房と左室の肥大
とある。(1)のasynergyとは「共同運動不能症」とか「局所的収縮異常」とか訳されるようだが,要するに,左心室(後部)の収縮の仕方に歪みがあるということだ。そのため,心機能を表す代表的指標である左室のEF(Ejection Fraction=駆出率)の評価がしにくくなっている。EFとは,心臓の収縮具合を表していて,そのの定義は
   EF=[ (左室の拡張期容積)—(左室の収縮期容積)] /(左室の拡張期容積)
である。ところが,エコーの2次元画像から容積は実測できないので,容積を推定するいくつかの方法がある。その中で代表的なのが,「Teichholz法」とよばれるものであるが,asynergyがあるとTeichholz法の信頼性が落ちる。そこでasynergyのある心臓には「single plane 何とか法」という方法(この“何とか”の部分はいまだに読み取れない)で容積を推定する。私の場合には,Teichholz法で計算するとEF=68%,single plane 何とか法で計算するとEF=48% ?とある。なぜか「?」がついている。手術適応の指標のひとつとしてEFを考えるときは,60%が目安になるので,私の心臓は,Teichholz法で考えれば問題ないが,single plane 何とか法で考えると問題大有りということになるのだろう。それにしても計算法によって20%も差ができるとは。検査結果を解析した人もあまりに低すぎる値なので「?」をつけたのか?
 紹介状の方は,薄っぺらい封筒に入れられていて,光にかざすと中身が丸見えである。マナー違反とは思ったが,つい,全文読んでしまった。こちらは丁寧な和文で書かれていたが,PAF(発作性心房細動)やらRIA(ラディアル手術)やら略号のオンパレード。しかし,略号はインターネットという強い味方がいるので,どうにでもなる。大したことは書いてなかったが,一つ新たな情報として,弁の逸脱部位が,A2とP2,すなわち,前尖中央部と後尖中央部であることがわかった。逸脱部位が端っこの方が形成はしやすいようだが,有野先生は形成の困難さについては特に問題視していないので大丈夫なのだろう。

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経食道エコー検査

2月23日(月)

今日は,胃カメラみたいのを飲んで食道側からエコープローブをあてる経食道エコー検査の日。普通の経胸壁エコー検査に比べて,肋骨に邪魔されないため,心臓の様子が詳しくわかるらしい。胃カメラさえ飲んだことがない私にはおっかない検査。身体へのストレス,侵襲が少なくないため,事前に検査承諾書を書かされる病院もあるらしいが,この病院ではそういうのはなし。

僧帽弁閉鎖不全症の心臓弁を経食道エコーで見るとこんな感じ。



この動画はTEE fanという経食道エコー(TransEsophageal Ecocardiography:TEE)のファンサイト(http://teefan.cocolog-nifty.com/blog/cat32841852/index.html)にあった動画で,私の心臓ではありません。

検査室に入ると,まずは検査の説明をしてくれる。自然な反射として「オエーッ」となるが,それは気にしなくて良いとのこと。あらかじめ,こう言ってもらえるとありがたい。遠慮なくオエーッをやらせてもらおう。

まず,椅子に座ってゼリー状の麻酔薬を口に含み,上を向いて1分ほどじっとしている。たった1分でも結構首が疲れる。麻酔薬を飲まないように舌でしっかりブロックしていると,咽に麻酔が届かないので,後で苦しむんじゃないかと不安だし,かといって,なるべく咽の奥の方まで麻酔に触れさせようとすると飲んじゃいそうになるし,加減が難しい。それを吐き出し,もう一度同じ事をやる。これで,口の中はかなり痺れた状態に。しかし,咽にはまだ効いていない。次にベッドに左横向きに寝るように指示される。服は着ていてもいいが,よだれで汚れるかもしれないというので,上半身はシャツ一枚に。代わりに毛布を掛けてくれる。不安を取り除くために安定剤の点滴をしながら検査するそうで,腕には点滴の針。そして,ちくわのような穴の空いたマウスピースをくわえされられる。これで,いざとなったらエコープローブの進入を実力阻止するということももはや不可能になった。経胸壁エコーのときは,検査をしてくれたのは検査技師だったが,今回,経食道エコーで検査をするのは医師であるような気がする。確かめたわけではないが,なんとなく雰囲気的にそんな感じがする。ここではとりあえず医師という仮定で話を進める。その医師に,マウスピースの穴から,先っちょに麻酔薬を含ませた脱脂綿をつけた棒をつっこまれて,咽に麻酔をグリグリ塗られる。遠慮なくオエーッとやらせてもらう。しばらく時間をおいてもう一度同じ事を。オエーッ。さあ,いよいよ本番が始まるかなと思っていると・・・

オエーッ。気がつくとすでにエコープローブは食道の中に入っている。と同時に「はい,もうすぐ終わりですよ」という医師の声。眠らされていた。精神安定剤というのは,文字通り,精神を安定させる薬かと思っていて,薬ごときでどうして精神が安定するのか興味津々だったが,何のことはない,睡眠作用に過ぎなかった。もう一度くらいオエーッをやった所で,検査終了。案ずるより産むが易しで,ほとんど眠っている間に終わってしまう楽ちんな検査だった。

ここですかさず医師に質問。話が長いと「詳しいことは主治医からお聞き下さい」と言われてしまうだろうから,簡潔に一つだけ。
「逸脱しているのは,前尖ですか,後尖ですか?」
僧帽弁は,右前にある比較的大きな前尖と左後にある比較的小さな後尖の2枚の弁からなる(右房,左房,右室,左室というのだから,前尖後尖でなく,右尖,左尖と名付けてくれた方が分かり易いと思うのだが・・・)。弁形成術で修復しやすいのは後尖であり,前尖の修復は心臓手術の中でも難しい部類に属するらしい。なので,逸脱しているとしても後尖であってほしい,いや,きっとそうだろう,なぜなら,私はこんなに元気なのだから,とここに及んでも非論理的な自信がある。ちなみに,この病気は自覚症状が現れにくい。医師の答は
「両方です。」
またしても,私の楽観的見通しは覆される。「両方かー,下手すりゃ弁置換になっちゃうかな?」とちょっと不安に。

検査終了後,「安定剤が効いて,ふらつくかもしれないので,気をつけて立ち上がって下さい」と言われるが,別に大したことはなく,普通に歩ける。麻酔管理の完璧さに日本海大学への信頼感が増す。咽の麻酔がまだ効いているため,気管の方へ誤嚥する恐れがあるということで,「2時間は唾も飲み込まないで下さい」という無茶な注文。まあ,努力はしてみましょう。

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執刀医指名可?

2月中旬頃のこと

まだ日本海大学でのエコー検査の結果も出ていない段階であるが,近所の病院での「重症僧帽弁閉鎖不全症」という診断と心房細動の出現から,私の中ではすでに手術は織り込み済みであった。この辺で遅ればせながら,世に病院をランクづけしたり推薦したりする本が数多く存在することに気付く。この手のランク付けのいい加減さは,少しは内情を知っている世界のランキングのお粗末さからも十分察せられるが,「ランキング上位の組織が本当に上位である保証は全くないが,少なくとも最悪ではない確率は高い」といった程度の参考にはなるとは思っているので,本屋で片っ端から目を通してみると,一冊一冊は話半分としても,様々な本の最大公約数からおおよその雰囲気はつかめてくる。日本海大学病院は症例数でいうと最上位グループには属していないが,中堅どころで,手術を依頼する病院として問題はなさそうだ。症例数最上位グループに属する病院のエースともなると,一人で日に2~3件の心臓手術をこなすこともあるそうで,その体力,精神力は賛嘆に値するが,一方で自分の手術が3件目になったらちょっと嫌だなあなどという勝手な思いもあったりして・・・気になるのは誰が執刀してくれるのかという点であるが,私は特別なコネでもない限り,執刀医の選択などできないものだと思っていた。価格競争のない医療の世界で,もしそんなことが可能ならば,すべての患者が経験豊富で高名な外科医に集まってしまうため,若くて経験の浅い未熟な外科医は「練習」ができずにいつまでも未熟なままで,外科の世界は世代交代が進まず早晩崩壊をしてしまう,ということになるはずだから。しかし,「医者がすすめる専門病院 (ライフ企画) 中村康生編」という本を見ると,執刀医の指名が可能な病院も結構多く,日本海大学病院も執刀医指名可となっていた。半信半疑ながらも,可能であるならば,当然,なるべく上手な先生に執刀してもらいたい。そこで,ネットを使って調べてみると,日本海大学病院で一番多く手術を行っているのは,心臓血管外科部長の沖先生であるが,この方はどうやら冠動脈バイパス術の方を得意としているらしい。二番目に多くの手術をしている仁田先生は,心房細動に対する外科手術の大家らしい。心房細動は,主に肺静脈を起源とする巣状興奮とよばれる不規則な電気興奮や,心房内の同じ領域を電気信号がグルグルと回ってしまうリエントリーとよばれる興奮によってもたらされる心房の痙攣であるが(この辺の記述に誤りがあったらごめんなさい),心臓を切って縫ったり,焼いたりして,この不規則な電気刺激の伝達を阻止し,心房細動を止める手術が1991年,Cox達によって発表された。迷路(maze:メイズ)のように複雑に心臓を切っていくので,メイズ手術とよばれる。1990年代初期における最も輝かしい成果の一つとも言われるそうだが,その複雑な切り方ゆえ,術後,左心房の収縮機能の回復が良くないという欠点があった。そこで仁田先生達は,迷路状に切開するかわりに,洞結節を中心に心房を放射状(radial)に切開するラディアル手術を開発し(1999年),良好な左房収縮機能が得られるようにした。今ではこのラディアル手術を含む,元々のメイズ手術のいくつかの改良版を全部ひっくるめて,広い意味でメイズ手術と総称する。仁田先生について調べていくと,心房細動関連の話が前面に出てしまって,弁膜症に対する弁形成術の話があまり見あたらないのだが,心房細動の治療のためだけにメイズ手術を受ける人はまだ少なく,この手術は弁膜症の手術に付随して行われることがほどんどであることを考えれば,メイズ手術だけが上手で弁形成術は下手と言うことはあり得ないだろうと思われた。それに私の場合には,弁については弁形成術をやってもらうということで迷うことはないのだが,心房細動については悩ましいように思えた。というのも,1回しか発作が現れていないということを考えれば,心房細動については特に何もしないという選択から(カテーテルアブレーションでもやるような)肺静脈隔離だけにとどめる選択,最大限切り刻むフルのメイズ手術という選択まで様々な選択肢があるように思えた。不必要に心臓を切り刻んでほしくはないが,だからといって,せっかく開胸手術をしたのに,術後に心房細動が残ってしまったら悔しい。なので心房細動に精通している外科医というのは魅力がある。というようなわけで,もし執刀医が指名可能であるならば,そのときは仁田先生にお願いしようと決めた。

ちなみに,はじめから気になっていた慶応でのポートアクセス手術は,やはりやめようと思うようになった。ポートアクセス手術の利点としては
(1)傷口が小さく,美容的に好ましい
(2)普通の胸骨正中切開法でまれに起こる縦隔炎という重篤な合併症の心配がない
(3)術後の回復が早い
が挙げられているが,(1)については男なので重視していない(傷口は小さいに越したことはないという程度),(2)については弁膜症患者としてはまだ若いのでたぶん大丈夫だろう,(3)については,手術で心臓に与えるダメージは同じ(手術時間が延長される分,心臓へのダメージはより大?)であることを考えれば,術後早期に「動けてしまう」ことへの心配があるような気がした。術後のリハビリについては,怖がらず積極的にやるべきと考える医師が多いように見受けるが,中には,人工弁輪や縫い糸が心内膜細胞に覆われるようになる術後3ヶ月くらいまでは,なるべくおとなしくしているべきだという意見の医師もいる。正中切開法の場合,胸骨が元通りくっつくのが術後3ヶ月くらいだというので,否が応でも術後3ヶ月は活動に制約がかかるだろうが,ポートアクセスで表面的な傷の治りが早いと,必要以上に動けてしまうことで,心臓に過大な負担をかけてしまうのではないかという不安を少し感じた。このように,利点が現在の私にとってはあまり利点と思えない一方で,長い棒の先での操作ということで,弁形成の質に不安を感じてしまう。弁置換術のように比較的容易といわれている手術ならば,失敗でなければ成功と言ってよいように思われるが,弁形成術の場合,成功といってもその成功の質が様々であるように思う。その質によって,10数年後の術後遠隔期の具合が変わってくるような気がする。なので私としては,手術をしやすいようにガバッと胸を開けて,形成の質を少しでも上げてもらいたいと思ったのだ。もちろん,ポートアクセスをやっている医師は,質の低下などないと言われるだろうし,事実そうなのかもしれないが,当時の私の思いはこうだった。さらにオマケの理由としては,ポートアクセスの場合には,恐怖のカテーテル検査がセットになっているようだが,普通の正中切開の場合には,場合によってはカテーテル検査をCT検査で代用できる事。もう一つ,正中切開法による手術は術後の痛みが少ないという文脈の中で,「肋間神経のくさむらの中に切開を加える肋間開胸術よりずっと痛みが少ないのです」という記述を見た(http://www.ne.jp/asahi/sw/luke/openHeartsurg1.htm →飛ぶ)。この「肋間開胸術」というのは,ポートアクセスのことを言っているわけではないのかもしれないが,肋間神経痛持ちの私には,「ポートアクセスで肋間神経痛が悪化したらたまらない」という思いもあった。ポートアクセス手術を受けた方の体験記としては
http://plaza.rakuten.co.jp/portaccess/diaryall (→飛ぶ)
がある。

もう一つ低侵襲手術として,ダビンチというロボットを用いた内視鏡下手術もある。

こちらも本来なら執刀医の指先に伝わるはずの微妙な感覚をあえて捨ててしまうことになるので(注1),やはり質に一抹の不安を感じた。現に,2006年当時,アメリカでダビンチを使っていたという日本人心臓外科医のブログ(http://ctsurg.exblog.jp/4689486/ →飛ぶ)を見ると,ダビンチをだんだん使わなくなってしまった理由として,とにかく面倒くさい,時間がかかる,僧帽弁の手術などはクオリティーの点で疑問という点を挙げている。ただ,このブログにも書いてあるが,ダビンチは泌尿器科の手術には向いているそうで,前立腺の「全摘手術はロボット手術に切り替わらないといけません」とまで言い切っている (http://www.gsic.jp/cancer/cc_14/rbt/index.html →飛ぶ) 方もいる。余談になるが,日本(アジアで)で一番早くダビンチロボットを導入(2001年9月)したのは慶応大学病院らしいが(http://web.sc.itc.keio.ac.jp/cvs/subroutine/Update_j.htm),なぜか慶応大学はポートアクセスの方にばかり力を入れているように見える。ダビンチによるロボット手術の体験記としては,2009年2月段階では見あたらなかったが,この文章を書いている2010年1月現在では,心臓病の掲示板として有名なたけしの部屋の掲示板で急に話題になったが,シンゾウ ケンイチさんの
http://ameblo.jp/kenko-shinzo/entry-10422653140.html
がある。

念のため繰り返すが,以上はあくまで2009年2月時点での,手術を受ける人間の直感に基づく個人的思いであり,私がポートアクセスやダビンチによる弁形成手術に対して合理性のある否定的見解を持っているわけでは決してない。

(注1)2010年8月6日追記:
 2010年7月29日に発表された記事によれば,慶應大学の大西教授らのグループが,触覚を伝える手術支援用マスター・スレーブロボット(触覚鉗子付16自由度低侵襲性外科手術支援ロボットシステム)の開発に世界で初めて成功したそうである。
 このロボットシステムでは、医師がマスターロボットの鉗子を操作すると、患者側にあるスレーブロボットの鉗子がそっくり同じ動作をするとともに、その触覚が医師側にあるマスターロボットで忠実に再現され、医師があたかも直接触っているかのような感覚が得られるとのことである。
http://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2010/kr7a430000039ras.html
 熟練すれば,数ミクロンの凹凸でさえ感知できる精密なセンサーである人間の触覚をどこまで現時点で再現できているのかわからないが,嬉しいニュースであると思う。



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