5月29日
外科の仁田先生の外来に行く。当初の一番の目的は,自己血の
貯血をどうするか聞くことだったが,前回の日記に書いたように,今や最大の関心事は大動脈弁の逆流も始まってしまったのかどうかという点である。何故か今日は珍しくすいていて,割とすぐに診察室に呼ばれる。一応まず,
貯血について尋ねると,念のためやっておきましょうということになる。しかし,自己血の
貯血というのはいいことずくめなのかと思っていたが,いくら自分の血でも,保存しておいた古い血を使うというのは,全然リスクがないというわけではないらしい。最近は日赤の血液の信頼性も高まってきているので,場合によっては必ずしも自己血の方がリスクが低いとは言えないこともあるらしい。
続いて,有野先生にもらったエコー検査のコピーを見せて,
「有野先生からは何も聞いていないんですが,ここにAR(moderate)と書いてあるのは,
大動脈弁閉鎖不全症のことでしょうか?」
と尋ねると,やはり,「そうですね」という返事。仁田先生が続けて
「まだ,エコーの検査を見ていないので確かなことは言えませんけど,もし必要なら,大動脈弁の方もちょっと形成しておきますよ」
と事もなげに言う。エコー検査を見てもらっていないことは残念だが,これについては以前に悩んだ(3/6の日記)ので,同じ悩みを悩んでもしようがない。
「大動脈弁の形成というのは,自己心膜を使ってやるやつのことでしょうか?」
と私。東邦大学などで積極的にやっている,切り出した自己心膜をグルタールアルデハイドで強化処理をして弁として用いる
大動脈弁形成術 (http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/ohashi/cvs/treatment/aortic_valvular/self-pericardial_sac.html) が念頭にあった。これだと耐用年数が生体弁と同程度くらいしか期待できず,再手術必至となってしまうのが気がかりだ。仁田先生の答は
「いや,パッチはやりません。エコーを見てなければ確かなことはわかりませんが,おそらく弁の周囲を少しすぼめてやれば,逆流は止まると思いますよ。」
とのこと。弁輪縫縮くらいなら耐久性の問題はないのかな? 少し安心した。
心房細動手術については,やはりフルの
ラディアル手術をやる見込みが大きいようだ。私の心房の膨張具合からいうと,ここでフルにやっておかないと,今は良くても将来,
心房細動がひどくなる可能性が高いようだ。ただし,せっかく切ったり焼いたりしたして電気信号の伝達を切断した部分も,将来再び伝達経路がつながってしまう可能性も否定はできないそうだ。また,フルに
ラディアル手術をやるとなると,心臓の左肩にある左心耳(→
まえだ循環器内科の図へ)という,
心房細動の際,血がよどんで最も血栓ができやすい部分を切り取ってしまうことになるのだが,ここを切り取る事による不都合は何かないのか尋ねると,心耳というのは,利尿ホルモンの生成にかかわっていて,元々の
メイズ手術のように左心耳,右心耳の両方を切り取ってしまった場合には,まれに小便の出が悪くなって体がむくむということもあったが,
ラディアル手術の場合には右心耳を残すので,そういうこともないという。
また,万一,僧帽弁形成が出来ない場合の人工弁についても聞く。
ワーファリンを飲み続けるのと再手術とどちらが嫌かと言われれば,再手術の方が嫌なので,人工弁なら機械弁でお願いしようと決めていたが,その中でも,MCRI社の
ON-X弁に興味があった。現在主流のSt. Jude Medical社製の機械弁の場合には,血栓防止のため一生
ワーファリンの服用が欠かせないが,
ON-X弁の場合には,弁の素材と形状を工夫して血栓ができにくいように設計されているそうだ。そこで,
ON-X弁をつけた患者の管理を,
ワーファリンを使わずにアスピリンのみで行うという臨床試験がドイツの倫理委員会で承認され,南アフリカで行われているそうだ(http://www.paramedic.jp/ON-X4.pdf)。なぜドイツで承認された臨床試験が南アフリカで行われるのか分からないし,そんな怖い試験に参加する人というのは,どういった経緯で選ばれているのか(くじ引き?)もにも興味があるが,それはともかく,
ワーファリンなしでいける機械弁というのは魅力的だ。臨床試験の最終結果はまだ出ていないのかもしれないが,仮に
ON-X弁を入れたときには,途中まで
ワーファリンを飲んでおいて,
ワーファリンなしでも安全という結論が出た段階でワーファリンを止めるということもできる。ただ,弁の選択には医学的見地だけでなく,大人の事情も絡んでいたりするかななどと変な気を回したりしつつも
「外国の方では,
ON-X弁でワーファリンフリーの臨床試験が行われているそうですが・・・」
と話を切り出すと
「あ,それは駄目です。脳梗塞のイベントの発生も報告されていますし,ワーファリンなしでいくのは危険過ぎるので止めた方がいい。」
と即答。ワーファリンなしではやはり駄目か。残念。しかし,続けて仁田先生は
「でも,
ON-X弁自体はいい弁ですから,もしもの時はON-X弁を使いましょう」
と言う。しかし,ワーファリンが必要なら特にON-X弁である必要もないので,
「St. Jude Medical社製の弁の方がON-X弁より優れている点は何でしょうか?」
と尋ねると
「やはり,長年使われてきた弁ですから,信頼性が確立している」
とのこと。期待の大型新人と実力を実証済みのベテランの違いみたいなものか。私は人工弁となった時にはやはりON-X弁でお願いすることにした。
いったん診察室を出た後,処置室に呼ばれ,そこで
貯血の予定を入れる。ここで応対してくれたのは,入院後の病棟主治医となる徳森先生だった。ここで入院の日取りも決めてしまう。有野先生からは,内科で入院するか外科で入院するか決まっていないので,今度の外来で決めようと言われたということも言ったのだが,まあ,いいでしょうと7月9日(木)に決めてしまう。前日の8日が冠動脈エコー検査の日なので,タイミングが悪い感じもしたが,でも,病院で一日長く過ごすよりも,面倒でも前日に病院まで往復した方が時間的にも経済的にも得だからいいか。
心配していた
大動脈弁閉鎖不全症の方も,形成するとしても“ほんのちょっと”で済むようだし,仮に“ほんのちょっと”で済まなくなったとしても,後は仁田先生にお任せするより他ないので,心配するのをやめた。
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