8月28日(金) 再入院4日目 手術後46日目
朝の採血3本。体温:朝37.0℃ 昼37.0℃ 夕37.0℃
微熱は相変わらずだが,気分は良好。
毎朝の血液検査の結果は異常なし。前回外科に入院していたときには,血液検査の結果はたまに口頭で医師から教えてもらう程度で,いちいちチェックしていなかったが,その反省も踏まえ,今回の入院ではプリントアウトした検査結果をもらうようにした。ただ,毎回要求するのも気が引けるので数回分まとめてではあるが。それによれば,CRPは0.10mg/dl未満(最低)で全く正常で,白血球数は,抗生剤治療開始後,がくんと減って4000個/μlだが,それでもまだギリギリ正常値の範囲である。赤血球数が400万個/μl未満で少な目なのは手術後ずっとだが,特に問題になるほどではない。
今日からタゴシッドの点滴が1回減る。
「感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)」
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2008_miyatake_d.pdf によれば,タゴシッド(テイコプラニン)は,半減期の長い薬で,初回量400mgを2~3回/日投与,以後400mgを1回/日,30分以上かけて投与するとある。初めに一気に血中濃度を上げた後は,1日1回で良いようだ。(このガイドラインの存在は,この時点では知らず,退院後に知った。)
ということで,以後の点滴スケジュールは
6時:ゲンタシン
9時:タゴシッド
14時:ゲンタシン
21時:ゲンタシン
となった。外科の時は,1日6回(バンコマイシン4回,ミノペン2回)だったが,これだと,1日が点滴だけであっという間に過ぎてしまう感じだったのに比べれば,今回の点滴は気分的にかなり楽だ。しかも,バンコマイシンもミノペンも1回に60分ちょっとかかるが,ゲンタシンは30分ちょっとで済む。ただ,タゴシッドというのが,粘性の高いトロトロした液体で,下手をすると,点滴のポタポタ落ちるあの部分の壁面を伝って流れ落ちてしまい,全然ポタポタ落ちるのが見えない。そうすると,点滴のスピードを調節できないのだ。最低30分以上かけるという指示で,普通1時間を目安にしているが,30分よりはるかに早く終わってしまったり,逆に,いつまでたっても終わらなかったりする。
角井先生は,一昨日は,感染性心内膜炎である確率は6~7割程度と言っていたが,今日は
「やっぱり,
感染性心内膜炎でほぼ間違いない と思います」
とのこと。エコーの動画などをじっくり見た結果,そう言ったのだと推測するが,そのときはボンヤリとしていてはっきりとその根拠を聞かなかった。聞いておけば良かった。
ただ,再入院の日(→
8/25 )にやった,動脈からの採血による血液培養の結果は,この時点で未だ細菌は検出されていない。(この後も検出されずに,結局陰性だった。)これについては,抗生剤治療の結果として,検出までの間に菌が殺されて,陰性になることもあるとのこと。上記ガイドラインによれば,
「血液培養陰性の感染性心内膜炎は,全体の数%から30%程度」
だそうである。
「心不全兆候や塞栓症状もなく,心エコー図で疣腫(疣贅)のサイズ変化や弁輪部への病変進展を認めないなど患者の状態の状態が許せば,数日間抗菌薬を控えて血液培養を数セット施行する。」
ともあるが,これはやらなかった。一番最初の血液培養で「
表皮ブドウ球菌 」が検出されていたので,起因菌はこの表皮ブドウ球菌と結論したようだ。
ただ,感染症ブログ:
http://blog.livedoor.jp/lukenorioom/archives/51438409.html# によれば,表皮ブドウ球菌(Coagulase-negative staphylococci)の場合は,血液培養によって検出されたとしても,58~94%は汚染菌,つまり感染菌ではなくて,採取・培養時に紛れ込んだ雑菌と言うことである。つまり血液培養の結果が陽性であっても,実際に感染している確率は6~42%ということで,これだけでは全然診断を確定できない。そのため,表皮ブドウ球菌のように,汚染菌である確率が高い菌を検出する際には,血液培養を複数セット行うことが必要と述べられている。
私の場合は,1セットしかやらなかったことが,今から思えば診断を遅らせたと思う。おそらく当初医師達は,感染性心内膜炎にかかっているとは本気で疑わず,念のために細菌が検出されないことを確かめようと血液培養を行ったのではないか。そして,予想に反し,表皮ブドウ球菌が出てきてしまったが,上記のように,これだけでは汚染菌である確率の方が高いので,診断を確定できなかったのではないかと思う。
緊急入院をしてしまったので,本も何ももって来ていなく,インターネットも使えないので,この病気に関して情報遮断された状態になっていた。辛うじて携帯電話だけは使える。大部屋なので通話は出来ないが,メールやネット接続は特にお咎めなしだ。電源を入れているだけで医療機器に影響があるなどということも聞いたことがあるが,ペースメーカーを埋め込んでいる人でも埋め込んでいる側と反対側の耳を使うくらいの制約で携帯電話を使用しているので,たいていの医療機器では問題ないのだろう。携帯でネット検索というのはこれまでやったことがなく,通信費がいくらかかるのかも見当がつかずに不安だったのだが,ちょっとだけ調べてみると,感染性心内膜炎の診断基準として,1994年にDuke大学の医師達によって発表された
デューク診断基準(Modified Duke Criteria) というのがあることがわかった。前にも書いたが,感染性心内膜炎を100%確定診断する方法は,心臓を切り開いて疣贅を採取してくるしかないらしく,外部からの検査ではあくまで「その確率が高い」という所までしか言えないので,感染性心内膜炎と診断を下す際,多くの医師がよりどころとするのがDuke基準であるらしい。その基準を以下に引用する。
(
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02808_04 )
<大基準> (1) 血液培養による陽性 ――典型的な心内膜炎の起因菌が2つの別々な血液培養から検出される ・連鎖球菌など,HACEKグループ ・黄色ブドウ球菌や腸球菌が検出され,他に感染巣がない場合 ――検出菌にかかわらず,持続的に血液培養が陽性 ・12時間以上の間隔をあけて採取された血液培養が2回以上陽性 ・3回の血液培養がすべて,あるいは4回以上の血液培養のほとんどが陽性(最初と最後の採血間隔は1時間以上) ――1つの血液培養からCoxiella burnetiiが陽性か,抗IgG抗体価800倍以上 (2) 心内膜病変の存在 ――心エコーにより以下のいずれかが認められる場合
・弁またはその支持組織などに可動性の心臓内腫瘤が存在
・膿瘍
・人工弁の新たな部分的裂開 ――新たな弁閉鎖不全(既存する心雑音の悪化や変化のみでは十分でない) <小基準>
(1) 素因:素因となる心疾患または静注薬物常用 (2) 発熱:38.0℃以上 (3) 血管現象:主要動脈塞栓,敗血症性肺梗塞,感染性動脈瘤,頭蓋内出血,結膜出血,Janeway発疹(注1) (4) 免疫学的現象:糸球体腎炎,Osler結節(注2),Roth斑(注3),リウマチ因子陽性 (5) 微生物学的所見:血液培養陽性であるが大基準を満たさない場合,あるいは感染性心内膜炎として納得できる活動性炎症の血清学的所見 (6) 心エコー所見:心エコーでは感染性心内膜炎を疑うが大基準を満たさない場合 (注1) Janeway発疹:径5mm以下の扁平不整形で無痛性の紅斑で主に母指球、小指球にできる。 (注2)Osler結節:手指の末端の腹側にできる赤色~紫色の有痛性の結節である。手掌や足底にも出現し数日間で消退する。 (注3)Roth斑:眼球の硝子体の凝集から成るもので網膜上に綿花状のものとして認められる。 大基準2項目,あるいは大基準1項目+小基準3項目,あるいは小基準5項目を満たす場合,感染性心内膜炎と診断する。
これを私の場合に当てはめてみると
大基準(1):× そもそも2セット以上の培養をしていない。
大基準(2):○ 心臓内腫瘤(しゅりゅう)とは「こぶ」すなわち,ここでは疣贅のことだろう。可動性の疣贅が見つかったので緊急入院となったのだと思うので,これは当てはまるだろう。
小基準(1):× 僧帽弁逸脱症は「素因となる心疾患」だが,手術で治した。覚醒剤もやってません。
小基準(2):× 熱はあるが,37.0℃の微熱。
小基準(3):× 今のところ微熱以外,何の症状もなし。
小基準(4):× 今のところ微熱以外,何の症状もなし。
小基準(5):○ 一回だけ血培陽性。表皮ブドウ球菌(CNS)
小基準(6):× 大基準(2)を満たしているので
ということで,満たされているのは大基準1項目と小基準1項目なので,Duke基準からすれば感染性心内膜炎でないということになるが,これはあくまで一応の目安だろうから,実際の診断は個々の症例ごとに判断が必要となるだろう。
当時は知らずにのんびりしていたが,Wikipedia(
http://ja.wikipedia.org/wiki/感染性心内膜炎 )によれば,
黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌など強毒菌によって引き起こされる場合、多くは、数日から数週間の急激な経過をたどる。高齢者に多く、健常な弁が侵される頻度が高い。弁の破壊の程度は強く、また、敗血症に発展することも多い。合併症としては、心筋炎や細菌塞栓が多く、死亡率は高い。放置した場合、平均で4週間で死に至る。
なとど怖いことが書いてある。表皮ブドウ球菌は,皮膚常在菌だからといってなめてはいけなかったのだ。
外科入院時同室で,私の再入院とちょうど入れ替わりで退院していった船橋さんが外来のついでに,まだ入院中の川杉さんと一緒に見舞に来てくれた。周りがどんどん退院していく中で,船橋さんも川杉さんも私も入院が長引いていたくちだが,その仲間に先に退院して行かれるとなんだが抜け駆けされたような感じだ。私も以前言われたが,船橋さんにも
「いつでも帰って来て下さいよ」
と言っておいた。その後,帰ってくることはなかったが。川杉さんは,軟禁状態で出歩けない私の所に度々遊びに来てくれ,コーヒーをおごってくれた。感謝します。
ワーファリンが3.0mgから3.5mgに再び変更。
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