2010年3月26日(金) 手術後8ヶ月
退院後,4回目の外来。体調は相変わらず絶好調。風邪一つ引かない。まだ心拍数が,椅子に座って大人しくしているときでも90bpm近くあって若干速いが,そのことで特に支障はなく,全く気にならない。病院は不況などどこ吹く風で,今日もまたもの凄い繁盛っぷり。午後2時の予約だったが,午後2時になっても午前中の患者さんの診察が終わらない上に,仁田先生が途中,
「教授会があるので,すぐ戻りますが,ちょっとだけ失礼します」
と言って出て行ってしまった。待っている患者さん達は
「すぐって言ってたけど,仁田先生のすぐは,30分以上かかるわよね」
とささやきあっていた。さすがに,ベテランの患者さん達は分かっている(~~;)。実際,戻ってくるまで1時間はかかった。夕方からの仕事の予定に支障が出そうで焦ったが,何とか4時頃には診察してもらえた。教授会で抜けた割には2時間遅れならまだいいか,と思ってしまえるなんて,私も大学病院の待ち時間には耐性が出来たものだ。
今日の一番の関心は,前回(
2/26)にやった経胸壁心エコー検査の結果である。入院中,何度もやった検査であったが,その頃は感染性心内膜炎の方に気を取られていて,あまり術後の心機能について関心がなかった。そのため,今思い返せばしくじったと思うが,エコー検査の検査表のコピーを貰っていなかった。今日はしっかりコピーをいただけるようお願いした。その結果を下に示す。
・値は左から順番に,2009年2月12日,2009年5月14日,そして今回2010年2月26日のものである。その右の{ }内は正常値である。
・最も代表的な指標であるEFの値は,括弧なしの値がTeichholz法(読み方は,うろ覚えだが,仁田先生はタイコルツと言っていたように思う。カタカナ表記すればタイクホルツだろうか?)によるもの,括弧内はsingle plane何とか法によるものである。昨年
2/24の日記に書いたように,術前はアシナジー(asynergy:心臓の収縮の歪みみたいなもの)があったので,一般的なTeichholz法による評価に信頼性がなく,single plane何とか法の方(括弧内の値)の方がより信頼性があるようだ。手術でアシナジーも治ってしまったので,術後はTechholz法による評価のみが記されている。
・検査結果は全て略号で記されていて,その右側の括弧内の日本語は私が自分で調べたものであるので,もしかしたら一部に間違いがあるかもしれない。
・[ ]内は単位である。
IVST[mm] (心室中隔壁厚) 9→9→6 {6~11}
PWT[mm] (左室後壁厚) 8→9→6 {6~11}
AoD[mm] (大動脈径) 35→32→28 {20~37}
LAD[mm] (左房径) 38→39→28 {19~40}
LVDd[mm] (左室拡張末期径) 61→61→50 {40~55}
LVDs[mm] (左室収縮末期径) 37→34→30
EF[%] (左室駆出率) 68(48)→74(59)→69
CO[リットル/分] (心拍出量) 5.5→3.6→8.5
A/E(左房収縮による左室への血液の流入/左室拡張による左室への血液流入) 0.65→0.82→0.78
e’[cm/s] (
僧帽弁輪速度か?よくわからない(注1)) 12.5→10.9→8.68
TR max velocity[m/s] (三尖弁逆流ジェットの速度) 2.31→2.66→1.95
ΔPIT?[mmHg](意味不明) 21→28→15
ASYNERGY 有→有→無
これを見ると心臓が小さくなったことがはっきりわかる。左室の大きさも正常値になった。仁田先生も「心臓が引き締まった」と言っていた。私がレントゲン写真を見ても,術前のと比べて見ているわけではないので気のせいという可能性もあるが,なんとなく小さくなったような感じがする。私など,重症僧帽弁閉鎖不全症患者の心肥大の程度としては,ごく軽い部類だったと思うが,これだけ短期間に小さくなったということは,自覚症状がなくてもそれなりに心臓には負担がかかっていたのだろう。弁膜症は術前の自覚症状がないだけに,手術の有難味が実感しにくい病気であるが,数字で見せられると,手術をして良かったなと改めて思える。
A/Eは,左心室に血液を入れる働きとして,左心房の収縮による押し込み効果と,左心室の拡張による吸い込み効果があるが,その働き具合の比である,多分。普通は,心房の働きに対する心室の働きE/Aを示す病院の方が多いようだが,ラディアル手術の本家である日本海大学病院では心房の働きを重視するので,分母と分子を逆にとっているようだ。例えば,心房細動手術によって心房が全く働かなくなってしまうと,A/E=0となる。私の場合は,全く心房の働きは損なわれていないことが分かる。
下から二番目のTRというのは,手書きで書いてあり,三尖弁閉鎖不全症(Tricuspid Regurgitation)のことかと思って焦ったが,その前に三尖弁閉鎖不全は無しとあるので,そんなはずはなかろうと思い,後日,仁田先生に聞いてみると,三尖弁閉鎖不全には違いないのだが,全くの正常範囲内であって,これは,血液の逆流ジェットの速度を測定することによって,右心室と右心房の圧力差をベルヌーイの定理より求めているのだそうだ。通常,右心房の圧力は10mmHgと考えるらしいので(「弁膜症を解く」317頁),実際は右心室の圧力を測定しているのと同じことのようだ。私の場合は,術後,ジェットの流速が小さくなっているので,右心圧が小さくなったということになる。これは多分良いことなんだろう。その下も手書きの殴り書きで何と書いてあるのかハッキリとは読み取れないのだが,ΔPITと書いてあるように見える。その意味をGoogle先生に聞いてもよく分からなかったのだが,ΔPというのが圧力差っぽい感じがするので,もしかすると,上のジェット流速から計算された右房右室間の圧力差なのかも知れない。
逆流は,MR(僧帽弁),TR(三尖弁),PR(肺動脈弁)ともに,±(あるかないかという意味だろう)となっていて問題ない。今回手を付けなかったAR(大動脈弁閉鎖不全症)はmild~moderateとなっている。術前のmoderateよりは良くなっているが,この程度は誤差の範囲だろう。
検査技師の方の所見として,
「前尖は肥厚し,softに見えます。Vegitation(―)」
とある。感染性心内膜炎の疣贅(vegitaion)の器質化(瘢痕化)した痕は消えてはいなく,相変わらず弁には厚みがあるようだ。
仁田先生としてはこの痕が消えてくれた方が安心なのだろうが,これ以上小さくなりそうにもない。そこでついに,順調だった場合に比べれば5ヶ月程遅れてしまったが,ワーファリンを止めることになった。
「パリエット(胃薬)はどうしますか?」
と聞かれたが,私自身,なんで胃薬を飲み続けているのか分からないくらいなので(以前,仁田先生にも理由を聞いてみたが,胃潰瘍などを防止するためという,角井先生と同じ回答だった。),判断のしようがなく
「分からないんですが・・・」
と答えると,
「それじゃあ,止めましょう」
ということになって,全ての薬からめでたく卒業できることと相成った。
ワーファリンのために禁止されていた納豆も今日からは解禁である。とは言っても,
「さあ,今夜は納豆を腹一杯食うぞ!」
という程,納豆が好きなわけでもないし,血液凝固因子の量が一日にして急変するというのも体に良くないような気がしたので,納豆を実際に食べたのはこの後しばらく経ってからだった。しかし,嫌いではないが大して好きでもないといった程度だった納豆も,久しぶりに食べてみると,
「こんなに旨いものだったか!」
と言う程,美味しく感じた。今回の入院によって,どんなものでも,同じ味のものばかり食べていると不味く感じ,久しぶりに食べると美味しく感じるということを,当たり前なのだが再認識出来た。
(注1) 心臓が膨張する速さを表しているようだ(2012年7月22日,追記)
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